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交通工学と心理学

沖縄講演では、「クルマで費やす時間と公共交通で移動する時間の使い方とどちらが合理的か?」と参加者に問いかけられました。趣味の魚釣りのために、かつては日本中をクルマで移動した折にその無駄が分かっていなかったご自分の体験を基にして、「クルマの運転は労働である」という事実に、沖縄の人が気がついているかどうかを考えるようにというメッセージを何度も発信された。(以下、紫字は藤井教授のご発言より)

人間の幸福学という学問の観点から、交通工学と心的効果との関連を分かりやすくご説明され、「クルマがいい」と思っている人は「客観的幸福水準」というものにだまされているのであり、クルマ漬け生活が実は不幸なことであるということに気がついていないと説明された。

行政の目的は国民の幸せ度をUPすることであるが、そこで費用対効果の観点が入ってくる。しかしここでは「20年先の計画の話をするのではなく、自分のこととしてとらえるために、10年先でせめて沖縄鉄道計画の話をしてほしい」と行政に迫った。

そして現在内閣府官房参与でもある藤井教授は、「現在の技術をもってすれば、那覇・名護間は30分で結べる」ことを強調するとともに、鉄道建設事業費についても内閣府が試算している総額の半分以下の4,000億円で可能だと指摘された。

鉄道がもたらした本土の新幹線沿い地帯の繁栄

また、この日のもう一つのメッセージに「鉄道が通るとまちの形が根本的に変わる」ことを本土で新幹線が通過した〈宇都宮市〉などを例に述べられた。日本の物流の70%が現在太平洋沿いに偏在しているのは、つまり鉄道敷設に沿って経済が発展してきたから。だから沖縄の経済振興を期した南北機軸を走る幹線敷設と、都市内の人と物の供給拠点としてのフィーダー的交通(たとえばLRT)の双方のメリットを生かした交通まちづくりの計画の可能性にも言及された。

そして最後に幸福論に戻って、

  1. 幸せになれる人間は行動転換した〈クルマから他の移動手段に〉」事実と、
  2. 「公共交通のハードが整っていればもっと転換できた」という背景は両輪なので、
  3. 「ハード面の準備(公共交通システムの充実化)と、人間への働きかけであるモビリティーマネジメントというソフトの作業は両立して進めなければならない」が結論と、私は理解しました。

この交通工学のハードと、交通を利用する人間の心理ソフトを結び付けて、ストラスブール市やグルノーブル市でも市民(MM=モビリティー・マネジメントの対象を学校や、事業所、病院利用者などに絞って)への啓発活動を行っている。そこでのキーワードは「環境」と「健康」で、また機会を改めて紹介したい。

ストラスブールのLRT・写真提供・石原勇季氏 こんな美しい街に住めば、交通工学と心理学の距離が近くなる

MMで「大切なのはコミュニケーションの努力で、今すぐ初めてください」という藤井先生の激励でご講演が締めくくられた。藤井教授によると「情報を与えるだけでも、MMの成果の結果は違ってくる」そうだ。だから、県庁がめざすように「県民、事業者、行政が一体となって、モビリティマネジメントによる公共交通利用促進を進めてゆかねばならない。」

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