ページを選択
  • どこに講演に行っても、合意形成について必ず多くの質問が出される。『ストラスブールのまちづくり』【学芸出版社)の中でも15ページを割いてそのプロセスを説明しているが、この秋にストラスブール市役所で聞いた、最近の都市交通計画施行に必要な合意形成の『現在進行形』のお話が興味深かったので幾つか紹介したい。
  • まず市民対象の合意形成のステップは、事前協議と公的審査との2つに分けられる。どちらのコンセルタシオン【合意形成】活動においても、パブリック・インヴォルブメントの内容 周知「広報資料の作成・配布」・市民からの意見徴収「オープンハウス、パブリックコメント、公聴会」・双方向性コミュニケーション「ワークショップ」)は同じだ。大きな相違は、事前協議は市役所が主催するが、公的審査では第三者から構成される中立的な立場の審査人からなる委員会が主導する。

市民対象合意形成の第一ステップ・①   事前協議の例・ 中央駅からWolfsheimまでの新路線

  • このストラスブール中央駅から北に真っ直ぐに伸びる新路線設定に関する事前協議は、2011年11月から12月までと、2013年4月8日から5月10日の二回にわたって実施された。(よく事前協議にはどのくらいの時間をかけるのか?という質問があるので、具体的な日程を記す) なぜ、2度にわたって事前協議を行うのか?実はこの新路線敷設にあたっては、市役所は市民に導入する交通手段まで問うた。『鉄のトラムか』『ゴムタイヤトラムか』『BRT【高機能バス】か』。 【写真下・市民に配布した『事前協議のお知らせ』パンフレット。各交通手段の輸送キャパシティー、工事期間、コスト、原価償却に至るまで、あらゆるパラメーターでの比較表を住民に情報開示した。】

1回目の事前協議では住民の意見が揃わず、輸送手段の選択へのコンセンサスが得られなかった。そこで、2回目の事前協議では、10のコミューンにわたる久々の大きな交通プロジェクトなので、50000枚のパンフレットを沿岸住民に配布し、また13の公共の場で情報パネルを展示した。 2度目の事前協議の結果、新路線へは鉄軌道採用がこの7月に決定した。 一日11万人の利用客を見込んでいるが、これから市役所で最終計画を策定し直してから公的審査にかける案件なので、工事着工はまだかなり先になる。鉄軌道に決まった理由としては:

  1. 技術的な観点から・タイヤトラムに決定した場合、技術的裏づけを市民に納得してもらうことが困難であった。 すでにストラスブール市では鉄軌道が6路線稼動しているのに、どのようにゴム軌道と統合させるのか? 「しかも鉄軌道の駅【中央駅】を、新路線が通過するので、なぜわざわざ今ゴムタイヤトラムなのか?」という質問への回答、説明が十分に理解されなかった。
  1. 財政的にみると・ゴムタイヤの方がコストが低く、また工事期間も短いが、「品質が劣るものを提案した」、というように住民に誤解されてしまった。ストラスブール市西区の住民はLRTを長く待った。だから他と同じような『きちんとした本当の』トラムを希望する声が多かったようだ。

【写真上・2回目の事前協議への招待状。沿岸市民5万戸に各戸配布した資料。この2度目の事前協議のパンフレットには、1回目の事前協議で市民の要望を考慮した結果、変更を加えた敷設路線図なども紹介している】

  • 日本では「コスト安」は大きなファクターとなるはずであるが、ストラスブール市では、「税金の無駄遣いだ」という声どころか、住民はコストの安いものを選択しなかったわけだ。ストラスブール市役所では決して『コスト安=品質劣る』ではないが、コミュニケーション方法の工夫が足りなかったのではという反省もあるようだ。またコストに関しては、まちにトラムを導入するような大型プロジェクトは、50年か100年に一度の大きな都市計画なので、『高くついても(フランスではほとんど公金を投入して、インフラ整備、公共交通運営を行っていることは、拙著でも講演でも詳しく説明している)、後世まで利用できるイイモノを導入したい。そのための投資は厭わない』と考える市民が多いということも、ストラスブールの元交通局長から聞いている。
  • この久々のストラスブール市での新路線敷設での合意形成では、まず、機種の選定から住民への合意形成にかけた事実自体が我々には大変驚きだが、その市民が出した答えも意外だ。これから公的審査に入るが、公的審査では路線の再審査はあるが、仮プロジェクトで決定した機種の選定【鉄軌道トラム】をくつがえすことはできない。

【写真下・市民向け資料で示された想定路線の複数案・赤線が市役所提案。青字は第一回の事前協議で市民からの要望が多かった改定路線コースを示す。】

この合意形成の第一ステップの事前協議を、公益性の高い公共プロジェクトに対して行うことは、都市計画法典L300-2で制定されている。つまり法律が、行政に『市民の声を聞く』ことを義務付けているが、「どのように聴取するか?」はそれぞれの自治体の裁量に任されているのが特徴だ。 ストラスブール市で、現在合意形成を担当している市役所の人の言葉を借りると:

「最初の合意形成【事前協議を指す】は、パネルを張って、「こういう交通計画がありますよ」という一般的な情報伝達です。ある一定の想定路線を市民に紹介して、それに対するいろいろなフィーバックを聴取しますが、市民の意見によって交通局でも路線をちょっと変更したりとか、この段階ではフレキシブルな柔軟性のある市民との対話が可能です。」そして、プロジェクトに対する大きな反対がなければ、市役所が具体的な数字を盛り込んだ本格的な仮プロジェクトを策定し、それを『公的審査』にかけるのが、合意形成の第二のステップである。(続く)

カテゴリー

0コメント

コメントを提出

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です