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  • 日本でLRTやBRTが進まない理由の一つに、「採算が取れない、また公共交通事業への公金投入が難しい」と日本の自治体でよく聞く。フランスの地方自治体では、都市交通事業に税金を投与しているばかりか(CTSの経営の大半そのものが税金投与で成り立っている)【下図参照・都市交通運営の財源=自治体からの補填が31%、*交通税から46%】、いわゆる社会運賃制度を適用している。たとえばストラスブール市の公共交通事業の運営主体であるCTSの経営状態をみると、運賃収入はその財源の24%しか占めない。(*交通税=従業員が10人以上の事業体に課される税金。人件費の2%が上限。自治体の独立直接財源となり、公共交通のインフラ整備、及び運営にのみ利用。)
  • 初乗りが1.1ユーロ、フランス全体で1ヶ月の定期券(バス、トラム共通)の平均価格が26ユーロ。運賃をより高めに設定すれば当然事業採算性は向上する。 しかしフランスでは、長距離移動ではなく、通勤、通学として毎日利用する「都市公共交通は、水や電気と同じく、市民に供給する公益性の高い基本的な社会サービス」ととらえられている。ストラスブール市でも2008年に社会党政権になり、より徹底した【社会運賃】が導入された。従来の「学生料金やシニア料金」 という「身分」による運賃決定ではなくて、交通利用者の実際の収入状態をベースにしている。この社会運賃の形態も非常に凝っている。*( 長い説明になるので、興味のある方は下記の記事をご参照ください) 【左図はストラスブール市の公共交通料金体系】
  • しかし、日本で同じ区間の定期券を購入するのに、これだけの選択は多分想像を絶する。しかも料金は提供されるサービス(グリーン車等)の差によるものではなく、サービス需給側の都合に合わせた料金体制である。

さて、この社会運賃導入により、公共交通利用者が10%増加した。現在ストラスブール都市共同体全体で17万人がICカード(専用端末機を接続すると、家庭でチャージできる。1ヶ月から1年まで希望期間の定期券の購入が可能。)の定期券を利用している。全体人口47万人の3分の1だから、大きな数字だ。ただし、どんなに低収入でも無料の定期券は設けない。最低負担額はアイスクリームの額【2ユーロ】であるが、「自治体が提供するサービスのコストを、市民が負担している」ことを意識づけるための参加費用なのだそうだ。

  • そんなに安い乗車券だが、それでも不正乗車をする人がいる。信用乗車方式で改札が無いので、LRTの車両には検札官さえいなければ切符や定期券を持たずに乗車できる。(下の写真・陽気なストラスブール交通公社【CTS/都市交通の運営事業体】の検札官たち・気軽に被写体になってくれた) トラムでは13.5%が切符無しで乗車、11.4%が切符をチケットキャンセラーにかけずに乗車している。(運行状況のリアルタイム管理のために、切符刻印機へのIC定期券の接触を推奨している。)バスでは切符無し乗車率が3%台にまで下がる。
  • そして、勿論この社会運賃制度には不都合もある。まず、定期券販売者の事務処理を考えてほしい。いつもCTSの切符販売コーナーがある街中のオフィスは満員だ。ただ定期券を販売するだけではない。購入者がきっちりと必要な証明書類を持参しているかチェックしなければならない【チェックする内容は下記の記事を参照】。

また労働を行わず、社会が提供するあらゆる保障に依存して生活してゆく人口も増えてゆく。フランス社会もそのバランスを図りながら壮大な社会実験を行っているともいえる。つまり社会サービスの受給側は、「Droit de cohesion sociale」「社会の整合性を求める権利」を当然として要求し、又供給側は「Conscience de l’investissement de la collectivité」「社会の格差をなくすために、共同体への投資の意識」を明確に持ちながら、税金の支払いを通して社会サービスを供給するメカニズム を基本として成り立つシステムとでも言おうか。

  • 経済活性化や都心部再生だけを期したまちづくりではなく、「格差を解消する」社会政策の試みの手段として、交通もとらえられているこのあたりは日本で私が説明する時に一番苦労するところでもある。自治体がすべての人に便宜を図れるように施策をたて、それを支える高税金を高所得者層が支払っている、というのは紛れもないフランス社会の構造だ。 ストラスブール市の交通政策に携わる人は言い切った。「交通権は、見捨てられた処にも同じ権利を与えることを保証するための観念である。不平等さがない移動を指す」と。 余りにも理想的すぎるだろうか? ちなみにフランスでは「社会運賃」という表現はない。ずばり「連帯運賃」。「富めるもの」と「社会弱者」との連帯である。

 *ストラスブール市の社会運賃支払いベース【家族係数QF】の算出方法

1. 年収【手取り】の12分の1を算出  2. もし社会保障や給付金を需給している場合にはその金額を足す 3. 2の総計額を扶養家族係数で割る ( 扶養家族係数とは簡単にいえば夫婦で2点、子供が一人増えるごとに0.5足した数字)。 つまり子供が多いとQFは少なくなり、運賃が安くなるシステムで、実はこれはフランスで所得税を算出する際に使用されるN 乗方式を採用している。ちなみにフランスの学校給食にも同じシステムが採用されており、親の収入によって支払う給食代も異なってくる。 多分日本では信じられないだろう。 【余談だがフランスで少子化対策の一つとして、この「子供が増えるごとに所帯の所得税が下がる」システムは大きな効果があった政策の一つに挙げられる。(保育所充実化などのハード支援、子供手当て支給の現金援助、女性の職場復帰支援等のソフ支援と共に)】

  • フランスはチャンスは平等(教育費は大学も含めて無料)だが、結果には差をつける社会だ。だから高給取得者がいても当然とするが、「金銭的に余裕がある者が社会インフラを支えるためにより多くの税金を支払うのも当然」、という考えが受け入れられているように思う。フランスは日本に比べるとはるかに高税金の国である。講演でもよく「交通税に対する反対が無いか?」という御質問をいただくが、きっとフランスに存在するありとあらゆる税金と社会保障の負担金の一覧表を見られたら、皆さんは驚くことだろう。間接税である消費税も19.6%で、さらに1%の上昇が予定されている。

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