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堺市阪堺路面電車状況レポート

08 07 2012 | Actualités ブログ記事, LRT, Sakai 堺市, Tramway-路面電車, Urban Planning まちづくり

6月19日 堺市を「RACDA大阪・堺」福井理事長にご案内いただきました。

通勤・通学時間帯以外でも利用客が多いという阪堺電車に、大阪・阿部野橋前駅から乗車。ここの一日乗車券は、(フランスの)宝くじと同じシステム、自分で乗車する年・月・日を一箇所づつ削り取って運転手に見せるユニークなシステムです。11月16日に『全国路面電車サミット2012大阪・堺大会』が開催される、緑が鬱蒼と茂る住吉大社の前を阪堺線は進む。

大阪市と堺市を隔てる大和川を渡り、まず堺市内区間(大道筋)の欧州都市なみの道路の広さに驚いた。道路の中心に阪堺電車が走り、両脇にはグリーンベルトもしっかり確保されている。これだけの道路表面スペースがあれば、自動車道路、自転車専用道路、歩行者道路を十分に取り、所々に残っている町家ふうの歴史的建造物を活かして、路面にカフェやレストランの椅子を出すことも可能、とイメージはふくらむ。 広々としていて開放感があり素晴らしい大通り。

学校の歴史で習った仁徳天皇陵のある電停「御陵前」を通りすぎる。しかし、御陵までは徒歩で行ける距離だが、電停には「仁徳天皇陵」までの道順を示す地図も矢印も無い。街散策がまだ徒歩中心になっていないことを思わせる。 また、バスにも阪堺電車電停にも路線図はあるが、堺市全体の広域地図に記した路線図が何処にも無いのも、そしてなぜか日本の地図はしばしば北が上になっていないのも不思議に感じた。(掲示される地図は上下左右に動かせないため、実方向に地図のロケーションを合わせた、と後に説明を受けた。)

フランスではたとえフランス語が出来なくても、地方都市に行けば、一人で公共交通を利用してまち歩きができるサービスを充実させている所が多い。「自由に、簡単にそして安く移動できる」ことで、地方都市の観光集客化を図っている。また、阪堺電車の車両は可愛らしいが、それに釣り合わない寂しい電停を、もう少し明るい雰囲気にすればもっと魅力的になるのでは?

阪堺線終点は浜寺駅前。隣の南海電車のレトロな浜寺公園駅の駅舎(東京駅を設計した辰野金吾の作品)では油絵の展覧会が開催されていた。この二つの駅の間を少し、歩かなければいけない。広島電鉄の藤元取締役のお言葉 (「2012年2月LRT普及促進懇話会in沖縄」・独立行政法人交通安全環境研究所主催)をお借りすると、公共交通を利用してもらうためには乗り継ぎに「歩かせない、濡らせない、待たせない」が3原則だそうで、広島の横川駅もこの理念により、市長が市民提案を受け入れ、路面電車がJRの駅舎に乗り入れるよう改善されたという。http://www.urban.ne.jp/home/yaman/yokogawa.htm)確かにフランス・ストラスブール市のトラム電停もそのように設計されていて、利用者の徹底的な便宜を図っている。

食堂の隣でそばを製造している蕎麦屋で美味しい昼食を経て、大小路と呼ばれるメインストリートを歩き、シャッター通りになってしまった山之口商店街(かなりショッキングな風景)を通り抜け堺市役所まで。途中、「南蛮のまち堺」を思わせるカラフルな素敵なバスが通る。

道路両脇には大きな木が残っていて緑が美しいが、しかし、歩行者道路中央部に駐車防止対策で設けられたポールは少し残念。 また、折角のこの広い道路景観が、色の統制が取れていない無粋な多くの垂れ幕で台無しになっているのも気にかかる。

        

市役所前の南海電車の駅前、高架道路の橋桁の下という本当に分かりにくい暗いスペースに、レンタルサイクル用スペースが設けられていた。「自転車を借りるぞ」と思っても、まず見つけ出すこと自体が困難な場所(JR堺市駅では駅の3階)にレンタル用自転車が置いてあり、『環境モデル都市』 の名にふさわしくないと思った。ここにレンタルサイクルを設置した人たちは、実際に自分たちで駅を降りてから自転車を借りる、というプロセスを行ったのだろうか?その後、堺東駅に近い市役所前に新たなステーションが設けられたようだが、やはり利用者目線が欠けていたと言えるだろう。

最後に市庁舎の展望台から大阪全貌を眺める。仁徳天皇御陵が大きい。そして堺東駅前の雑然とした姿。「フラットな駐車場の隣に高さの有るビル」という組み合わせがエンドレスに続く。こうして上から見ると、都心部にいかに駐車スペースが多いかがよく分かる。路上駐車が圧倒的に多かったストラスブール市では30年をかけて、駐車スペースを減少させ(勿論、地下駐車場やパークアンドライドの充実化など、車利用者の便宜も図りつつ)、グリーンスペース、憩いの場としてこれら都心一等地の駐車スペースを市民に開放してきた。これを、『車に占拠された都市空間を、住民にお返しする』と表現している。

市役所前の南海電車に乗れば難波へは15分で着く。大阪都心繁華街の天王寺や難波に近い堺市だからこそ、逆に「難波に行かない」、「行けない」堺市民、子連れ家族、高齢者などがゆったりと『歩いて楽しめる』堺中心地のまちづくりを考える必要があると思う。『衛星都市に中心部は必要ない』と言ってしまった途端にまちは活気を失う。歴史も文化も豊富な人口80万人もいる町だ。もっといろいろなまちづくりができると確信している。既存の阪堺線を活用して、東西鉄軌道の設置、阪和線との結節、鉄軌道の無い所にはバス走行などの都市交通計画を総合的に進めながら、自転車専用道路と歩行者専用空間の導入も十分に可能だと思う。「堺をもっとよくしたい」、という福井理事長のお気持ちと情熱が、そのお姿が穏やかなだけに、余計に私にも強く伝わった。

こうして既存の公共交通・路面電車が走っている日本の都市をみていると、あらためて、なぜ大挙して日本の都市交通計画の専門家たちが、こぞってフランスのトラムが導入された地方都市の視察に訪れたのか、良く理解できる。単なる交通手段として公共交通を捕らえるのではなく、まちの景観に溶け込む、都市デザイン性を重んじたフランスの路面電車は確かに、それぞれの『都市の顔』となった。さて、堺市の阪堺線はこれからもどのような顔を見せてくれるだろうか?

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