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Qeustions at Okinawa prefecture

  • 質問7 . 日本とフランスの相違 

「日本でトラム導入が進んでいない要因は何でしょう?」

まず第一に考えられるのが、行政側も市民側も、『車の走行が妨げにならないように、トラムは導入されるべき』というあくまでも車交通の補助として、公共交通導入を考えている点。トラムのプラス効果を見るのではなく、トラム導入がもたらす負のファクター、つまり車交通の妨げ、という局面に重点が置かれすぎていた。車中心の発想から出て来れていない。

しかし、近年は日本の状況も変わってきている。高齢化社会を迎えて、国も超低床車両導入や、電停改装への補助金を供出する仕組みが少しづつ揃ってきている。フランスでは日本より、高齢化社会への到来が早かったし、また都心の過疎化など、まちづくりへの危機感が日本より20年ほど早く問題になっていた分、対応も早かったといえる。

第二は日本の市長選挙が4年という短期間であること。合意形成でもめている間に次の選挙になる。 対抗馬は、選挙の戦略上、トラム慎重派にならざるを得ない。 もし、政権が変われば、トラム導入のプロセスは振り出しに戻ってしまう。 たとえば、LRT導入計画が1990年代から盛んであった宇都宮市の経由がその例として挙げられる。 フランスでは市長の任期は6年で、各地方都市でトラムが開通した年をみると、市長選挙の前の年が多い。 それでも、計画立案、合意形成、工事と5年で開通に持っていくのは驚異的なスピードである。 また、強力なリーダーシップを持った自治体首長が、継続性をもった都市交通計画を進めることは非常に重要だ。

第三は、日本では自治体経営の公共交通でも 独立採算制、『黒字経営』が求められること。実は日本からの専門家の質問で一番多いのはこのポイント。なぜフランスは、自治体の公共交通経営は赤字でも許されるのか? 詳細は拙著『ストラスブールのまちづくり』でも繰り返し述べているが、一口にいえば、『税金をどのように使うか、という国の社会哲学』の問題に行きつく。 「交通権 」(フランスの法律で保障された社会的権利の一つ。安全に安く移動できる基本的権利)をすべての住民に確保するために、採算性を度外視して公金で赤字を補填して、行政は公共交通サービスを住民に保障している。税金の無駄遣いだという批評や見直し論は聞かないので、これはフランスの社会が容認している、ひとつのコンセンサスに基づいていると考えていいだろう。