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  • 6月8日の宮崎市での講演のあとの質疑応答の模様をお知らせします。この日は、上下分離についてが主なテーマになりました。

質問・2006年にストラスブールに行った時に、感激しました。一企業に上下分離で公共交通の経営を委託した場合、民間側の利潤はどこにあるのか?

答・自治体から補填があるので、一定の収入が見込めます。切符販売からの営業利益ではありません。

質問・切符収入を利潤と受け止めたが、企業の方でも最低限の利潤があれば投資できると思うが。

答・ストラスブールの場合切符収入が23%しかありません。これはLRTを運行しているフランスの多くの地方都市でも同じくらいの割合です。ストラスブールではLRT運行事業体である第3セクターに自治体が補填をしています。残りは交通税で賄っています。ただ、運行事業体は運行サービスのノウハウを提供するが、インフラ設置などの先行投資の必要がないので初期投資の大きな支出の必要がないことが有利です。

フランス全体で見ても自治体による直接経営は9%のみで、大半の自治体が軌道運送運営を民間事業体に委託しています。

下図は走行距離別にみた、委託先民間企業一覧表ですが、Veolia Transdev 社とKeolis社のシェアが圧倒的に多いことが分かります。

質問・運営資金として税金投与が必要ということですが、いかにしたら日本で市民の意識の啓発ができるのでしょうか?日本の場合、時間がかかるだろうか?

答え ・フランスでは交通基本法で『移動する権利』が、基本的人権の一つとして認められていることが大きな影響を与えています。日本でもLRT推進議員委員会があり、交通基本法が国会で審議されていましたが、2012年度末に廃案になりました。今あらたにまた議員立法として提出されています。*交通基本法は2012年度国会で何度かの審議が行われたが2012年11月に廃案となった。

質問・フライブルグで公共交通の車体に大きな広告をみました。それが軌道運送事業体の副収入になっているのか?

答・バスの車体に広告を搭載している自治体もある。しかし私の知っている限りではトラム自体がデザインなので、トラムの車体に広告を載せている自治体は少ない。モンペリエ市などは有名デザイナーがデザインした車体を運行させている。宮崎駅も建築デザインとの兼ね合いで、駅の名前を横に書けず敢えて縦書きに駅名を記していてとても格好がいいですが、それと同じです。〈下の写真右より。宮崎駅の名前が縦書きになっている)

ストラスブール市の場合にはたとえばクリスマス・マーケット開催のお知らせなど、まち全体のイベントの宣伝をトラム車体を利用して行っているが、民間の宣伝は今まで見たことがありません。実際フランスで走っているトラムは美しいし、広告規制が厳しいので、一般にまちの景観全体がすっきりしているのが特徴です。

質問・この9月にストラスブールに行きます。公共交通の計画をたてる上で、専門家集団の存在をお話されましたが、チームの構成は?

答・専門集団が計画を策定するわけではありません。コンサルには現状調査を依頼。しかその調査をもとにして路線決定や料金設定は市役所の交通政策課が行います。データ提供はコンサル。しかしそれを使って判断は市役所ということです。ただ市役所にすべての専門家が揃っているわけではないので、有期雇用であらゆる専門家を雇います。鉄道や景観のデザイナー、建築家、土木や広報、財政の専門家など。こういったトラム軍団が工事現場に赴き工事状況を管理して、議会に工事の進捗状況などの情報開示を行っているので、チェック機能が働いています。

質問・情報開示がすごいですね。うちの近所の河川工事もどうなっているのか分からない。というのが実情です。

質問・(大きなプロジェクトなので)欠点もあると思うのですが。

答・トロットマン市長の弁ですが、「トラムを通さなかったら(確かにトラムを通すとコストはかかり、実際に地方税も上がった。住民税で運行赤字分を補填。)多分、車の弊害が増えて、医療保険などのつけを我々は今払うことになっていただろう。都市のスプロール化が進んで、行政コストが増えていたはずだ。しかし、そういった試算はもうできないし、トラムを入れていなくても、何らかの形でお金はかかっているはずだ。」

延伸工事の時代に入ると、最初の情熱がなくなると文句を言う人が出てきます。ストラスブールの第二期トラム計画では社会政策の一環の融和政策の一つとして、不安定地区にトラムを引きましたが、都心の高齢者は反対しました。しかし人間はお互いに知らないとかえって怖くなります。ゲットーを作ってはいけない。居住空間を限定するとまちは死んでしまいます。ラップを踊るような若者に年寄りが出遭うようなことによって、まちに活気が出てきます。これは決してきれいごとではなく、そんなふうに考えているフランス人が多い。それを社会の連帯性と呼んでいます。「裕福な地帯には公共交通は通さない。余裕があるから自分でやってください」。ということです。

質問・赤字は自治体が補填しているということだが、たとえばサービスが悪くなり利用客が減ったので、事業者は入札で合落とされることもあるか?

答・確かに運営は赤字ですが、これは社会政策の一つとして切符運賃を低く設定しているからです。この23%(切符収入の歳入に占める割合)という数字をもっと高くしようと思えばできる。たとえば、ロンドンのように初乗りを高くすればもっと儲かるが、敢えてそれをしない。これは税金を何に使うかという社会哲学の問題。日本は鉄道の経営が上手くいっていたので、交通に黒字経営が要求されるが、フランスではもともときめ細かい地域鉄道サービスがなかった。だから自治体が経営に乗り出した。というのが実情です。今までの交通状況が国によって違うので、フランスのやり方を日本に持ち込んで上手くいくとは限らない。【続く】

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