ページを選択
  • 7月18日、読売新聞関西版「論・LRT」で、関西大学の宇都宮先生と当方のインタビューが一面記事で掲載されました。紙面がA3サイズよりも大きいために全体記事のコピーが難しかったのですが、オンラインでも記事が発表されましたので、ご紹介させていただきます。
  • [論]LRT(次世代型路面電車) ヴァンソン藤井由実

2014年08月02日 Copyright © The Yomiuri Shimbun

  • 欧米で進むLRT(次世代型路面電車)への関心が、国内でも広がりつつある。環境に優しいうえ、都市のデザインを見つめ直す契機になるからだ。街づくりに生かしていくにはどのような視点が必要か。

◆住みやすい街 創出 グランドデザイン不可欠 
◇ヴァンソン藤井由実 ビジネスコンサルタント

  • 日本より一足早く車社会になったヨーロッパは、1980年代に都市の中心部が空洞化し、商店街がシャッター通りと化していた。現在、日本も抱える問題をどう乗り越えたのか。車への依存を減らし、LRTなどの公共交通機関を中心にして歩いて楽しい街をつくる――それが答えだった。先駆けとなったフランス・ストラスブール市は1994年にLRTを開通させて、今や「街づくりの聖地」として世界に知られる。ドイツとの国境にある人口約27万人の地方都市だが、各国から多くの視察団が訪れている。ストラスブールでは、LRTの導入に伴い、車道や駐車場を歩道やカフェに造り替えた。軌道を緑地化し、電停や街灯のデザインを統一したことで、殺風景だった街の景色は一変した。さらに車の乗り入れを規制し、LRTとバスとの共通運賃制度を設けた。自転車専用道路も整備し、交通網の総合的な見直しを進めたのだ。車を完全に排除した訳ではない。迂回(うかい)路を整備し、車を使う都心の住民が不便を感じないよう、格安の駐車場利用パスも配布した。そうした取り組みの結果、7割を超えていた都心の車の利用者は2009年には5割を切り、逆にLRTやバスなど公共交通機関の利用者は倍増した。ずいぶん住みやすくなったようで、市の人口増にもつながった。観光客も着実に増えている。ストラスブールの成功を受け、2000年代からヨーロッパの各都市がLRTを街づくりに活用していった。

    日本でも、LRTの導入を検討する自治体が出てきているが、大切なのは、まず「どのような街にしたいか」というグランドデザインをしっかり描くことだ。車が使えない人でも暮らしやすい街をつくる「コンパクトシティー」を掲げ、その中でLRTを計画するのは一つの考え方だろう。

    ただ、都市によって適否がある。LRTは人口20万人規模に適している。一定の利用者を見込めるからだが、既存の交通網の利便性を高めないと、乗客の奪い合いになるだけだ。人口15万人以下なら、BRT(バス高速輸送システム)の導入も考えられる。

    LRTは単なる交通機関ではない。職住近接の環境を整えるだけでなく、人を呼び込む力もある。「街づくりの装置」と位置づけて、活性化に生かしてほしい。(聞き手・杉浦まり)

    ◇ヴァンソンふじい・ゆみ 大阪外国語大(現・大阪大)卒。欧州で通訳として活動。著書の「ストラスブールのまちづくり」は2012年度土木学会出版文化賞を受賞。

  • [論]LRT(次世代型路面電車) 宇都宮浄人 2014年08月02日

◆高齢者に優しい足 既存交通との接続重要◇宇都宮浄人 関西大教授

  • 関西は私鉄を中心に公共交通機関が発達してきた。鉄道を効果的に使うという発想に欠ける自治体が多い。大阪市も地下鉄の延伸に力を入れてきたのはいいが、駅によっては私鉄とうまく乗り継げないなど不便な面もある。まして、既存の鉄道のネットワーク化にまでは考えが及ばなかった。一定のインフラ整備が進んだ現在は、単に「造ればいい」という時代ではない。低成長時代に突入して鉄道各社は収益確保に悩む。地方では路線の撤退の動きも絶えない。一方で、高齢化社会が進展し、だれもが安心して利用できる交通システムが求められる。実情を踏まえた街づくりを考える自治体にとって、LRTは選択肢になるだろう。駅ホームへの移動に体力を使う地下鉄やモノレールに比べ、LRTは路面電車で乗降の段差が少ない。高齢者に優しい交通機関と言える。しかもバスよりも運行時間が正確で、より多くの乗客を輸送できるという点でも評価されている。既存の鉄道路線やバスだけでなく、車や自転車との乗り換えもスムーズにできるようにしたら、多くの人が利用するのではないか。

    建設費も魅力的だ。大まかな数字だが、1キロあたり約20億~30億円とみられる。モノレールは100億円、地下鉄は200億~300億円とされているからかなり安い。

    道路整備費のごく一部を充てれば実現可能で、比較的導入しやすいのではないか。

    LRTを都市計画にどう盛り込むかが肝要だ。市街地と郊外を結ぶ交通軸、既存鉄道網の補完、都心の回遊性を高めるという機能が考えられるが、観光地の多い関西であれば、「回遊性」を重視してはどうだろう。

    例えば大阪なら、阪堺電気軌道の恵美須町駅と難波をつなぐのが現実的だ。にぎわう「あべのハルカス」にほど近い恵美須町駅と、一大ターミナルの難波の間で新たな人の流れが生まれるはずだ。

    神戸の場合、山手の異人館から三宮を経由させ、神戸港まで通す。京都ならJR京都駅と、繁華街の四条河原町を結ぶ路線が考えられる。そうした区間でLRTが走れば、観光客の利便性も向上するに違いない。

    文化が集積した京阪神は世界有数の都市圏だ。観光戦略で海外へのアピールを強めるためにも、LRT導入の是非を議論すべきときだろう。(聞き手・前田利親)

    ◇うつのみや・きよひと 1984年京都大卒。日本銀行を経て、2011年から現職。「滋賀県新交通システム検討協議会委員」などを務める。著書に「鉄道復権」など◆世界140以上の都市で導入

  •  LRTは低床で揺れが少なく、窓が大きいなどデザイン性も高い。電停近くには駐車場やバス停を整備するケースが多く、人に優しい交通システムだ。LRTは欧米を中心に140以上の都市で採用されている。国内で唯一、運行する「富山ライトレール」(富山市)は2006年に開業し、市の第3セクターが運営する。赤字路線だった旧JR富山港線がベースで、2012年度の利用者は約195万人。1日当たりの平均利用者数(平日)は4826人で、JR時代よりも倍増した。年代別では50歳代が最も多い。市はLRTを軸にした街づくりに取り組み、宇都宮大の准教授らの調査によると、導入で周辺人口や地価の下落に歯止めがかかった。観光客も増え、国の重要文化財「北前船廻船問屋 森家」の入場者は開業前に比べ約3倍になった。こうした中、現在、宇都宮市や神戸市、堺市などが導入を検討している。神戸市の担当者は「LRTは分散した観光地をつなぐ交通手段になる。街づくりの起爆剤になると期待している」と話す。国も、自治体や鉄道会社に対し、補助金や税制上の優遇措置を設け、07年には自治体がレールなどを敷設し、第3セクターなどが運行する「上下分離制度」を認めた。昨年末に施行された交通政策基本法には、「まちづくり」を念頭に置いた交通施策の推進を初めて盛り込んだ。
  •   〈BRT〉一般道とは別のバス専用道路を設ける交通システム。渋滞の影響を受けず、車両の連結で、多くの乗客を運べる。交通渋滞の激しい中国や韓国などで導入されている。
  • 2014年08月02日 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

カテゴリー

0コメント

コメントを提出

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です