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⑤予算と広報

  • さてこの素晴らしいプロジェクトには2億2千万ユーロをかけたが、LRTにすると5億ユーロはかかっていたそうだ。運行事業体であるTAMM社は、BRT導入のためにメッス・メトロポールが創設した第三セクで、1年に約70億円の運営コストを支払っており、これはメトロポール【都市共同体】の年間予算の3分の1に近い。すでに整備コストに300億円計上していることもあり、当然このコスト高が攻撃の対象になっている。

だから、さらなる乗り心地の工夫をして利用者を増やさなければならない。幸いに、窓が割れたなどの小事故以外に大きな事故は今のところ無く、車内でもブレーキ発信で乗客が倒れるくらいだ。エンジニアによると、安全対策とは「企画をたてる上流段階で、事故が起こらないような道路整備、十字路を設計することが肝要」で、メッスで利用している優先信号システムは歩行者の道路や十字路の通過時間まで計算している。だから「安全運転とはシステムの中に内包されるべき」で、専門のコンサルに道路設計を依頼した。ちなみに2014年9月に開通したブザンソンLRTでは1ヶ月にすでに2人の死亡者が出たが、これなどはLRTが危険なのではなくて、むしろ軌道設計に問題があるとの見解を示した。

  • さて、メッス市のもう一つの大きな特徴はBRT開通をまちの大きなイベントととらえて(写真上・METTIS 開通イベントのお知らせポスター)、見事な広報活動をおこなってきたことだ。そこで、一般バス路線の再構成の説明もきっちりと行った

かつては中心広場にバス16路線が入っていたが、BRT導入と共に今は3路線に統制された。すべてのバスが都心中心の共和国広場を通過するのではなくて、結節点を広場周りに幾つか設けて路線系統をすっきりとさせた。それによって、不満がある利用者には、全体的バス路線の構想を例に挙げて議員が説得に当たった。曰く「運行頻度が高くなった事実を評価するべきだ。かつては25分に1本、今は15分に1本、夜は24時まで運行なので便利になった。」 或いは「今までのように一部の住民が直通で都心部にアクセスできなくなっても、大多数に対する路線サービスが大幅に改善されたことの方が大切」だと、議員が説得する。こういったことを発言すると日本では「なぜ私がその新しい不便を蒙らなければいけないのか」と詰め寄る市民がいるそうだ。

  • では具体的にメッス市が行ってきた合意形成時に展開した広報戦略をみてみよう

まず都市共同体は4つの目標をたてた。

1・プロジェクトを説明して受け入れてもらう。 2・プロジェクトを積極的にセールスする。 3・工事期間中に市民によりそう。 4・BRTサービス開通イベントを準備する。

そして2009年に2010年から14年までの4年計画を構想し、予算を250万ユーロとして【フランスは必ずしも単年度予算でなくても良い】、広報を担う広告エージェントを選択するために入札をかけた。BRTのイメージを植えつけるグラフィックなロゴの開発(図上)なども含めて、この広告会社には広報戦略の『コンセプトづくり、キャッチフレーズ作成、広告内容のクリエーション、媒体やツールの選択、自治体へのアドバイス』などすべてを任した。つまり都市共同体はいっさいを外注する。勿論アイデアを競ってコンセプトを提示した幾つかの広告会社から、委託先を決定するのは都市共同体である。

第一段階でのプロジェクト情報開示については、インターネットホームページの開催、パンフレット、定期刊行物、モデルハウスの設置(市民が立ち寄って質問できる)、プロジェクト内容を説明する大型パネル展覧ホールなどを設けた。これら市民の目に触れるものには、徹底してBRTのロゴ、カラーなどがコーディネートされ、統一化されたイメージの情報が伝達される。【下は工事現場に置かれるパネルを利用して、企画をアッピールしている】

それらと並行して事前協議では市民対象ミーティングを14回、特に商店街と企業向けにさらに7回、各市民団体とのミーティングも4回、2009年から開催。METTISと言うネーミングも広くインターネットなどでアイデアを募る呼びかけを行った結果、選択された。この後、事前協議のプロセスは法律に従って、公的審査、公益宣言と進むのはどの都市でも同じだ(ストラスブールのまちづくり78頁から88頁まで)。

  • 次に工事段階に入って配慮したことは「工事現場沿岸住民のケア」と「工事の意味」の伝達。つまり沿岸住民には工事中の迂回政策を説明し、一般市民には「なぜこのような工事が必要か?工事の結果どのようなまちになるか?」をヴィジュアルに説明することだ。どれだけ事前協議を丁寧に行っても、工事が始まってから慌てて「一体何が始まったのか?」と市役所に走りこむ市民がいるのは、どこの都市も同じようだ。(写真下は、工事の進捗状況を伝えるカレンダー)

沿岸住民対象の交通迂回説明会を開催、フリーダイヤルの設置、工事中の都心のホテルや商店へのアクセスの方法などを説明するツールの開発など、活動は多岐にわたる。

また首長などが先頭にたって、「METTISの工事が始まります!」とアッピールする記者会見なども積極的に行う。フランスでは公共交通に限らず、公益性の高い工事現場には必ず、工事内容から予算、施工主までを細かく分かりやすく説明したパネルが立つ

 『分かりやすい』『市民目線』というのは、難解な表現を使わず、しかし単純化されたデッサンではなく、きちんとした建設工学の道路全体図などをパンフレットに掲載することで、決して「幼稚っぽい」、という意味ではない。何時から日本の自治体発行の案内誌の表示が漫画っぽくなったのだろう? 「字を大きくしないと市民から苦情が出る」、というのは理解できるが、フランスでは漫画キャラクターが掲載された自治体広報誌というのはまず存在しない。どの都市のパンフレットを見ても、視覚的に美しい。そして最後は開通イベントの準備だ。ダンス、フォーラムなどミニイベントを計画して、市民の臨場感を盛り上げた。(写真下・雨でも多くの市民が集まった都心でのBRT開催イベントの催し)

今では世界中からBRT視察団が訪れ、BRTはメッス市民に誇りになっていると言ってもいい。昔は古い街なみに旧いバス。今はMETTISにポンピドーセンター。旧い路線バスの車体もBRTと同じ4色に揃えるという徹底した措置を取り、まちの至る所を走る公共交通が、まちのイメージ刷新に貢献したといえる。企業誘致の際にまちの売りイメージそのものを変えた。こういうフランスの小都市の試みにも非常にいい意味で驚かされる。

かつては自動車が駐車されていた大学前の広場にもBRTを導入。[:en]

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