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パリ市の思い切った運賃政策・路線バス近況

18 10 2015 | Actualités ブログ記事, Bus BRT バス, Paris パリ

  • パリでの交通がすべて、月70ユーロに均一化された。1から5までのすべてのゾーン、すべての公共交通機関(メトロ、バス、トラム、高速地下鉄道RER)を一枚のカードで、利用できる。またこのカードは空港に向うオルリーバスやロワシーバスにも適用できる。(下写真がNAVIGOと呼ばれる、パリのすべての公共交通に共通した定期券についての案内書)

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  • 「東京都内の移動が一ヶ月間、9500円でくらいで乗り放題、」とイメージすると、この政策のすごさが分かる。このNAVIGOが利用できるパリを中心とするイルドフランス地域の人口は約1190万人なので東京の人口約1335万人のエリアと同じくらいと考えていいだろう。パリ交通圏でのソーン1と2はすでに2014年1月から70ユーロ均一であったが、遠くのゾーンである5までの定期券は116.5ユーロだった。だからこの9月1日からの変更により、人によっては最大46.5ユーロまでの『割り引き』の恩典に預かることが出来る。
路線バスの電停の整備が進むパリ。遠くからでもBUS停と路線番号が読みやすいように表記

路線バスの電停の整備が進むパリ。遠くからでもBUS停と路線番号が読みやすいように表記

  • 実はこの政策の背景には、イルドフランス地域圏(県の上の州組織)の公共交通政策を決定する都市交通管轄機関(AOTP)であるSTIF(イルドフランス公共交通会社)が、2008年まで国の管轄下にあったが、現在では完全に国から離れて、地方分権化された事実がある。現在STIFには、地域圏議会、地域圏を構成する8つの県や、そのの又下にある1281の行政最小単位であるコミューンのそれぞれ代表が理事会に席を持つ。分かりやすく説明すると、STIFが交通政策を決定し、たとえばSTIFから委託を受けてRATP(パリ地下鉄公団)はメトロを運行するという形だ。STIFの運営資金の39.2%は交通税、運賃からの収入が29.8%(2014年の発表数字)であるが、そのほかに19.3%が理事会を構成する各行政団体から拠出されている。つまり理事会は『口も金も出す』わけだ。フランスの地方都市の公共交通運営において、切符収入が少なく、赤字運営になっていることについてはすでに、フランスの社会運賃制度で紹介しました。https://www.fujii.fr/?m=201401&paged=2&lang=jaだから今回の70ユーロ一律運賃に際してもSTIFでは4億ユーロの歳入減少につながると算出しているが、これを補うのは自治体からの拠出金の増加と各企業の協力だ。各企業の協力とはずばり交通税率の上昇を意味する。STIFは交通税をすでに上限以上である2.85%からさらに0.1%上げる許可を国から得た。(同じテリトリー内でも交通税率は区域によって微妙に異なり、調整している)。パリ周辺の給与水準はフランスの他の地域に比べて高いし、高額所得者層も多いので、人件費に対して課せられる交通税は、かなり確実な収入になっているといえる。
バス停には必ずそれぞれの路線地図と時刻表が明記

バス停には必ずそれぞれの路線地図と時刻表が明記

  • もうここまで来ると『公共交通に対する哲学』の違い、としか言いようが無い。収益性向上ではなくて、『市民へのモビリティー提供』。またこのように運賃を大幅に下げることによって、自家用車通勤が公共交通通勤に鞍替えすることも期待されている。これは交通のガバナンスの問題であり、「誰が交通政策を決めるのか・・それは市民から選出された議員で構成されるSTIFの理事会が決定するのだ」、ということだ。それぞれの行政体の交通政策を専門とする議員や県議会の副議長クラスの公人がSTIFの理事を努め、公共交通の方向性を考えている。
新しいバス停には、ITS運行状況表示も併置され、何分後に自分の載りたいバスが到着するかが分かるようになった。

新しいバス停には、ITS運行状況表示も併置され、何分後にどのバスが到着するかが分かるようになった。

  • このほかSTIFではかの有名なGRAND PARIS構想や、都心と近郊では速いピッチでのLRT導入、都心における路線バスの専用レーン整備、路線バスへのバリアフリー連接車輌投入、電停の近代化、南の郊外における本格的なBRT導入など、ここ2.3年で一挙に公共交通の利便化に動きに拍車がかかってきている
  • 今度パリに行ったら、路線バスの新しい電停を見てください。バスロケーションのデジタル標示が整備されつつあります。あと、パリに残った大きな課題は実はメトロにはほとんどエスカーレーターやエレベーターが無いことだ、と個人的には思っている。(だから荷物がある時は、どうしてもタクシーを利用してしまう。パリではタクシーもバス専用レーンを走行できるので、タクシーの速達性も確保され、タクシー本来の機能を活かすことが可能だ)
  • パリの路線バス専用レーンは自転車やタクシーと共有しているスペースが多い

    パリの路線バス専用レーンは、自転車やタクシーと共有しているスペースが多い

    どうしたら、こんな風に周りの風景にマッチしたバス停を整備できるのだろう・・・

    どうしたら、こんな風に周りの風景にマッチしたバス停を整備できるのだろう・・・

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