・オルレアンのLRT : 日本人には、ジャンヌダルクが仏英100年戦争の際にイギリスから解放した街として有名なオルレアン市は、その都市圏の人口が29万人で人口密度は約900人/km²と低く、美しい大学がありその学生数は2万3千人。先のナンシー都市圏とほぼ同じ人口規模だが、交通政策主体であるオルレアン都市圏共同体(Orléans Métropole)は2000年に南北を結ぶLRT第一路線(A系統・18Km)を導入した。トラム路線は単なる交通手段ではなく都市空間を再設計する機会ととらえ、旧市街の中心部、特に大聖堂や市役所の前には景観を損なうため架線設置はふさわしくないとして、アルストム社のAPS技術を採用し(地下集電で架線が無い)3億9千万ユーロを投資した。(2000年当時の税前数字・車体購入やインフラ整備コストも含む)。プロジェクトの過程で、APSによる給電区間の距離を980m(旧市街のみ)から1650mに延長した。

景観を損なわないために、地下集電APSシステム(アルストム社)が取り入れられた中心市街地を走るライトアップされたゴールドカラーのLRT。
・2012年には、11,3Kmの東西方向の接続を提供するLRT第二路線(B系統)も開通した。トラムAとB系統はオルレアン都市圏の公共交通ネットワークにおける基幹路線として合計43編成を走らせており、現在年間パーソントリップ(LRT/バスを含む)は3630万(2023年)で、これは公共交通利用パーソントリップの60%に対応する。同じ人口規模のナンシーの年間パーソントリップが2900万なので、住民の公共交通利用率が高く、輸送能力の高いLRTの存在の影響を感じる。

中心市街地で柵やバリケード(歩行者に対する)が全くない軌道で頻繁に交錯するLRTの間を、歩きぬける人たち。

特徴あるデザインのLRT車庫

オルレアンを代表する景観になった大聖堂と架線レスで走るLRT
・オルレアンのバス・そして、残りの公共交通利用者40%がバス利用である。バス路線は40系統あり、駅数は1217。さまざまなタイプの200台近いバスを走らせているが、2019年以来、オルレアン都市圏共同体はハイブリッドバスを購入し始め、現在では。ガソリン・ディーゼル使用は全く無くなったと市では説明があった。従来からのバスはバイオ燃料HVO(加水素処理植物油)エネルギーを使用できるように改造した。そして、2022年にIVECO社(フランス)の18m連接のハイブリッド(電気とHVO)バスを23台導入、2023年には11台追加している。オルレアン都市圏共同体としては、バス全体でバイオのみのエネルギー使用バスを62%、残りはハイブリッド或いは電気、と考えている。

IVECO社のハイブリッド連接バス・Crealis 18 Hybrid(18,395m)・2022年から2024年にかけて44台も導入された。
・オルレアンのEVバス・そしてハイブリッドバス購入とほぼ同じ時期、2021年にイリザールが初めて製造したEVバス ie tram 12 (長さ12,165m)を29台発注し、2023年には新たに12台追加発注した。名前にTRAMが入っていてこれも紛らわしいが、バスである。ナンシー市が導入したHess社のトロリーEVバスも名前がLIGHTRAMで、どうも皆、単なるバスではなくトラム(LRT)のような車体であることを強調したいようだ。しかし専用道路を走るこれらのBRTは定時性が確保され、運行頻度も高く信用乗車などで利便性も高いので、「LRTのような交通手段である」ことを市民にアッピールしているのだろう。


イリザールEVバスie tram 12。12m車体だがドアは3つある。TAOはオルレアン都市圏共同体交通を意味し、路線全体をTAOというロゴと同じ車体デザインで統一しているので、一般の利用者には、ハイブリッド連接バスとEVバスとのの区別は余り分からないかもしれない。
・イリザール社としてもEVバスの大量納入は初めてであったので、オルレアン都市圏共同体仕様でほぼオーダーメイドに近い形で内装なども整えられた。居心地が良く、明るく快適な雰囲気を醸し出すために、内装は白を基調とし、天井には小さな青いライトが点在し、背もたれには透明素材を使用。座席数(21席)を減らして立ち乗りスペースを増やし、乗客の移動を容易にするため、ドアは3ヵ所に設置された。また、安全運転向上のための整備(カメラ付きバックミラー、360度カメラ、障害物検知、交通標識認識カメラなど)が多数搭載されており、運転手の評価も高いそうだ。

椅子の背もたれの透明性と木模様のフロアーが特徴的な内装

どのバスも高齢者用椅子、ベビーカーや車椅子スペースの確保などの対策は万全だ。
・車種選定にあたって、特にバッテリーの航続距離に関して多くの調査が行われたそうだ。充電方式については、柔軟性を重視し、追加構築が必要な場合に対応できることを考え、急速充電ではなく低速充電が選ばれた。急速充電システムは、電力変電所などの追加工事が必要となるためである。今後、車庫以外の場所でも充電所を整備することの可能性を排除しないためにも、低速充電を選択した。

充電ステーション・1回のフル充電で最大航続距離は220km。ほとんどの路線では必要な航続距離は250km未満だが、必要に応じて、バスは昼間に車庫に戻されて充電される。
・イリザール社は、EVバス納入後、保証期間の2年間メンテナンス対応のために2~3人のチームを派遣しており、発注側のオルレアン都市圏共同体の交通当局はこの対応を高く評価しているようだ(勿論購入時の契約通り)。現在では利用が始まって3年間がたち、プラス・マイナスの総括もできている。総じてオルレアン都市圏共同体はEVバスに満足しているが、利用当初は並行性(バスが右側に寄る傾向)や、モーターや車輪に問題もあったとのことだが、運行事業者(ケオリス社)は定期的に調整を行ってきた。また冷却液の漏れやモーターベアリングの問題も発生したが、イリザール社が修理を行い段階的に対応する姿勢によって補われている。
・オルレアンの将来の交通の在り方への展望・LRTやバスなどの交通サービス全体の年間運営コスト(年間1050万kmの輸送サービスを提供)は1億1千万ユーロで(現在の乗客数は約4千万/年に近づいているが、2030年には乗客数を4220万に増やすことを目指している)。そのうち約2千万~2千5百万ユーロを運賃収入が補っている。公共交通の資金の50%は従業員11人以上の企業が支払う「モビリティ税」、30%は地方公共団体からの補填、約20%が乗客からの運賃収入で賄われていることになる。公共交通の利用料金は、1回の乗車で2ユーロ(紙チケットの場合は2.20ユーロ)でどの交通手段でも利用可能。オルレアン都市圏共同体の目標は、公共交通へのモーダルシフトを促進し利用者を増やすことである。現在ではすべての住民29万人の住居から500m以内に公共交通の停留所があり、公共交通サービスを利用できる体制になっており、公共交通の分担率を2028年までに10.5%(2014年)から12%に引き上げることを目指している。また自動車から自転車へのモーダルシフトも目標としており、単独運転(1台の車に一人)の分担率を49%(2014年)から39%に減らす計画をたて、徒歩と自転車の利用を促進する政策も打ち出している。たとえば長期レンタル可能な多様な自転車1500台が用意されており、貨物用自転車(カーゴバイク)などの自転車もある。また、短期利用(通常10~15分程度)向けには、650台のシェアサイクルが用意されている。

ATM機のように見える、街路の建物壁に内包された切符販売機。
・都市圏全体の住民を公共交通に接続するためのオンデマンド交通(RésaTAO)・(TAOはオルレアンの公共交通サービス全体の商業名称)システムを24時間、週7日稼働させている。密集地域でも早朝や夜間は利用者が少ないため、トラムやバスの定時運行は困難になる。オルレアンでは、6時~21時30分は公共交通サービスがない地域をカバーするために、21時30分~6時は「RESA nuit」(夜間予約)として、昼間は運行しても夜間は公共交通サービスがない時間帯にデマンド交通を予約できる。RésaTAOは、人口密度が低い地域や夜間の利用者が少ない場合に便利である。RésaTAOサービスは、トラムやバスと競合しない条件で提供しているので、バスやトラムが運行している場所や時間にはRésaTAOサービスはない。ResaTAOの料金は、1時間以内の利用で2ユーロ、または月額40ユーロの契約で時間制限無しで利用できる。しかしResaTaoの実際のコストは1人あたり約200ユーロで、残りは税金で賄っている。ResaTAOを月決めで契約している人は約2万5千人。

オンデマンドEVミニバス(https://www.transbus.org/dossiers/tad.html)
・都市圏共同体議員たちの姿勢・今回のヒヤリングには、オルレアン都市圏共同体の交通担当の行政スタッフだけでなく、共同体議会の副議長(交通担当)やかつてLRT導入を決定した時期の議員さんも同席された。公金を使用して整備する公共交通なので、その導入に議員たちが大きな責任感と誇りを持って公共交通整備事業を決定し実行してきたことが伺われた。益々広域からオルレアン都市圏に移動する人口が増える将来を見越して、地域の交通全体(LRTや路線バスだけでなく、自転車、オンデマンドバスなど)に対する明確なヴィジョンも持っている。また、交通を包括したまちづくり(都市空間の再編成に伴う賑わいの創出)にも積極的である。たとえば、長い間郊外にあったオルレアン大学のキャンパスを少しずつ市中心部に戻している。そうすることにより、「将来のまちづくりを担う若い世代が、学生時代からまちの中心街で生活し、まちを知ることは大切だ」と議員たちが発言していたことが印象的だった。フランスでも世帯構成や商店構成が変わってきて、郊外の大型スーパーマーケット会社が経営する、近接型のコンビニタイプの小さいミニスーパーが中心市街地で発展してきた。「そういった変化に伴って、たとえば(トイレットペーパーのような)嵩張る買い物も、トラムに乗スーパーなどで出来るようになってきている。人々の消費の形も交通と共に変化していることが分かる」。このように(車で移動していたら見えない)市民の日常生活をしっかりと観察している議員たちの姿勢も伺われた。

ヒヤリングで対応してくださったオルレアン共同体議会の副議長とかつてLRT導入に携わった元議員さん(左のお二人)。共同体政府の交通局の方(ここではお1人しか見えないが、多くの方々にお会いした)。非常に丁寧に対応していただき、また日本を訪れた経験もおありで日本の公共交通状況に対しても大きな関心を持っておられた。

中心広場にはジャンヌダルクの像が大きく立つ。

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