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  • この6月にライトレール社が企画される交通ビジネス塾でお話する機会をいただきました。 少し遅くなりましたが、多くのご参加を頂き、また講演のあとの質疑応答も議論が続きましたので、その際の質疑応答の一部をご紹介したいと思います。 http://light-rail.iza.ne.jp/blog/entry/3087440/

    左端が、株式会社ライトレール社・社長・阿部氏 http://www.lrt.co.jp/

質問・ドイツは路面電車を70年代に廃止することなく進化させ、今のようなドイツ鉄道DBへ高速で乗入れできるまでになりました。つまり、LRTの新規開業はごくわずかです。それに対してフランスはそのほとんどが新規開業です。これは日本の新幹線整備網のように、国家プロジェクトがLRTに対してあるのでしょうか?

藤井・国家プロジェクトとまではゆかないが、日本の国交省にあたるフランスの所轄官庁(http://www.developpement-durable.gouv.fr/ ) では、公共交通導入プログラムに対して自治体に一貫して資金援助を行っている。現在でもプロジェクトコスト全体の25%を上限として、交付金が54の自治体の78のプロジェクトに交付されているが、対象は必ずしもLRTとは限らない。

質問・日本では合意形成で難航しているLRT新規開業ですが、どこに問題があるのでしょうか?フランス人の国民性やセンスについても興味があります。私は3年ドイツに住みましたが、ドイツ人は古いものを上手く利用するという効率化を図り、たとえばトラムトレインを利用している。フランスとドイツでは都市公共交通の発展の仕方が違ったように思います。同じEU諸国とはいえ、文化の違いが発展の違いにつながったのか、とも思う。ふりかえって、日本ではどうか?

藤井・EU諸国と日本を見ていて、一番感じる違いは多分「日本では市民が「まちのあるべき姿」を議論する時間がない」、という事実ではないだろうか。After 5を充実させる余裕がない。市民に自治体の政治や市民活動に参加する機会が少ないのが、都市計画についての市民合意形成もなかなか進まない背景にあると思う。

質問・LRTの導入にあたっては、Car User のみならず、バス事業者等の既存交通事業者からの反対があるように想像します。LRTの実現のため、フランスではどのようにこれらの反対を説得したのか。(上下分離について。フランスの自治体にすでにあったバス会社は民営だったのか?)

藤井・地域交通網としては、フランス国営鉄道SNCF(昔のJR)運営の地域間を走る長距離バスと、県議会(Departement)が主に運営している長距離バスがあり、そのほかに近年では地域圏(Region)議会が運営する地域鉄道TERがある。日本の阪神電車のような民設民営の民間運送業者で、フランス人なら誰でも知っている輸送サービスはない。しかし各自治体の公共交通の運行サービスは民間が行っている場合が多い。そのうちの一社、Keolis社にはSNCFも資本参加している。日本では新たにLRTを敷設する際には、すでに黒字経営を行っているバス経営会社の説得が必要になる。説得というよりは、地域全体をみて、どのような総合的な交通サービスが必要か、整合性を持たせた交通サービスネットワークを構築する必要がある

【左写真・地域圏議会が運営する都市と農村地帯にある自治体の間を走る列車には、自転車の収納スペースを設ける車両が多くなってきた】

関西大学の宇都宮先生の表現をお借りすると日本では『なまじ過去に公共交通が黒字であったために、赤字路線を切る事態になっている。』 逆にフランスにはこのような背景【公共交通ビジネスの成功】がなかったので、市民に「公益性のある社会サービス」の社会性を浸透させることが出来た、とも言える。

質問・トラム導入にあたり、市民や都市圏を構成する周辺市町村からの合意形成について具体的なところ、例えば、計画段階や90年代初頭という導入時期には、フランスでトラムは必ずしも良いイメージを持たれていない中、トラム整備と一体で導入された中心部の自動車乗入れ規制に対して商工業者や居住者から同意取付けが可能であったのは、どのような理由であるかや、ストラスブール都市圏を構成する周辺市町村がどのような理由から整備に同意したのか?またLRTができたあとの賛成はわかるが、一番最初、計画段階の80、90年代の市民の反応はどうだったか?大変反応が悪かったと聞いた。商店には補填があったことは講演を聴いて分かったが、しかし郊外では税金が増えて、トラムは市街地にしか通らない。ナントでは市長が説得に手間取ったとも聞いている。NBIY症候群はなかったのか?本音は?

藤井・LRT導入初期にストラスブール市で説得に困ったのは、昔の路面電車のイメージを持っていた高齢者市民の説得であった。新しいLRTの快適さや近代性を分かってもらえず、なぜ今更またそんな古いものを導入するのか、と言われた。一度は廃止したものを復活させることに対する、行政側の説明努力や、或いは政策決定側の全体的な将来ヴィジョンを上手く市民に伝えることは肝要だ。 【下写真・走るLRTと市街地のショップとのこの近い距離感。車両からブティックの中が見え、ブティックの中から車両の大きな窓を越して、通りの反対側まで見える。】

確かに最初のトラムが開通する1994年までは大きな反対があった。しかし、市の行政としては『声の大きい住民の意見が聞こえるが、声が小さい人の要求も汲んでいく。』という意識を持っていたそうだ。 当時はまだまだ移動制約者(障害者)などへの配慮は少なかった。「全員が賛成する政策が存在しないならば、首長の判断で、最大公約の市民のために都市政策を決めてゆく。」ということがなされたのが、1990年代でその意味では当時はまだきめ細かい合意形成が行われていたとは言えなかった。 インターネットやコンピューターが今ほど普及していなかった時代のことです。 ご存知のように、 現在では『都市計画法典』で、合意形成の細かいプロセスが法律で制定されており、フランスの各自治体はすべての公共性を負う企画に対して事前協議を行っている。

ただここで意外なのは、「普通のフランスの市民は交通税や交通権のことは知らない」という事実です。サラリーマンでも源泉徴収ではなくて自己申告制なので、国民の納税意識は高い。そして、細かいことは知らないが 『税金は高いが、富の再分配(たとえば消費税が19.6%だが、一方教育費は大学も含めてほぼ無料)が機能している。』と考えている市民が多いように思う。高税負担に対する不満が多いが、それなら減税して市民がすでに受益しているサービス減小を受け入れる、という発想は全くない。その意味ではフランスはお上頼みの国ともいえる。また地方分権化は進んでいるが、地方官吏も含めて官僚が自信をもっていて優秀で、この高負担・高サービスの社会を支えている。

中心部の自動車乗入れ規制に対しては、LRT導入が議会決定され、工事のために車の排除が必要だったという背景がありますが、これは当時としては画期的なことで、フランス国内でもで大々的に報道されました。【https://www.fujii.fr/?m=201209  当時のゆきさつをこの記事で詳しく述べています。】

質問・日本で富山に続くLRT都市が実現しないとのことで最近の国内事情を見ると、宇都宮など少なからず動きはあるのですが、ハードルの一つとして、地元有権者の「乗りもしないものに税金なんて!」という認識が少なからずあると思います。 地元有権者の皆が使うかどうかもわからない公民館や図書館に税金を投入するとしても余り文句が出ないのとは対照的です。欧米ですと、公共交通は赤字でも 税金で…という考え方があるだけに、このような認識差の中で、様々な事情が合致してLRTが導入された富山に続いて国内で導入されるには、何が一番必要だ と思われますか?

藤井・企業に課せられる交通税は現在ストラスブールでは実際2%で、トラム路線から遠い所で営業する企業も負 担しています。ここで、市街地の中心にしか通っていないのに、どうして市街地以外の土地の住民を説得するのか、ということは良く質問を受けます。『全体と してまちのイメージが良くなる結果、投資した不動産の価値が下がらない。ストラスブール、あんなところに住みたいな。』というまちのブランドイメージの向 上を、全市民が受けている、という認識があります。こういった経済効果が90年代にすでに出ているし、実際人口も雇用も増加しています。

【写真上・古い歴史的建築物である駅正面をガラス(3万2千M2の流線的シェルター!)ですっぽりと覆った、素晴らしいストラスブール中央駅。最近、フランスの終着駅で、ピアノが置いてあり「さあ、貴方の番です」とサインボードが。】

【写真右・そうして汽車を待つ間、いつも誰かしらがピアノを弾く風景がよく観られるようになった。こういう仕掛けはフランスは上手い。夜などはジャズ音楽の周りに人だかりが出来るくらい】

【写真下・こちらも駅構内の大型パネル写真展・「元エストニアから来た移民の子孫である、右の若いフランス人がエストニアに行って、先祖の写真を見つけました。」というストーリーが説明してある。】

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