・9月号で紹介したナントはまた文化政策においても卓越した都市戦略を実行してきた。2012年から毎夏行われている野外アートのイベント、「ヴォワイヤージュ・ア・ナント(ナントへの旅)」のプログラムのレベルの高さには定評がある。都市そのものを劇場とみなして、大がかりな複数のインスタレーションアートを中心市街地の複数の広場に設置し、美術館に足を運ばずとも住民が芸術作品を鑑賞できる(下写真)。このプログラムはコロナ下の2021年も実施され、今年は7月2日から9月11日まで行われた。
・豊かで斬新な交通政策、都市空間再編成や文化の諸政策が集積されたといえるのが、ロワール川の中州にあるナント中之島再開発地区の15分都市構想の実現である。1970年代まで、ロワール川に浮かぶ面積4.6㎢の中の島には港湾施設が備わっていた。1835年から中の島の主幹産業であった造船業は、ロワール河口に近いサン・ナゼール(Saint Nazaire)へ移ってしまい、最後の船が進水した1987年以降、中の島は閑散としていた。立地条件が良く、水辺に恵まれた一等地を再活用するために、自治体が主体となって1991年から3.37 ㎢(そのうち1.5 ㎢が公共空間)を対象とする、広大な産業遺産地域の再開発に乗り出した。それから30年。マスターアーバニストは今では3代目。中の島の開発も驚くほど進んでいる。
・中の島は、自転車で移動できる範囲の非常に快適な住居空間であり、たとえ就労先が島の外部であっても、公共交通の利便性が高いので通勤時間は1時間以内に収まり、車を所有せずとも十分に島暮らしは成り立つ。計画的に開発してきたので、生活に必要な行政施設、幼稚園、小学校、商業施設、公園(4.6㎢の敷地に公園が10ある)、医療機関などが、住宅地から遠くない距離に揃っている。開発初期から意図していたわけではないが、結果として「歩いて15分(或いは自転車で5分)以内で暮らせる生活 ができる、徒歩移動を中心とした生活環境を整えた都市」という15分都市構想に、この中の島が上手くあてはまっている。
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