・日本不動産学会誌149号「特集・インフラ整備、地価上昇と地域経済」に寄稿させていただきました。
この特集号の巻頭記事は、2024年春季全国大会シンポジウム「地域交通としてのLRTの課題と展望」で、18頁にわたり、先生方の大変興味深いご見識、ご意見がまとめられています。また、2023年度に開通した宇都宮市の事例もあらゆる角度から検証されており大変興味深いので、特にLRT導入とその地域にもたらす効果にご関心のある方は是非ご一読されることをお勧めいたします。
・拓殖大学の奥田教授が、LRTに関する法律問題を「停留所のバリアフリー問題」「都市景観上の問題」「輸送能力の問題」「運転手の問題」「経営上の問題」の5つにまとめられておられます。同じような課題をかかえつつ、31都市にLRTを、41都市にBRTを導入してきたフランスも、法律を改正しながら、問題をクリアしてきました。在来線を中心に鉄道関連の法律を整えてきた日本では、今後都市域内交通も焦点に入れていくことが必要であり、また新しい交通手段移動のニーズがなければ、それに即した法律改正も望めないとされています。フランスでも、国が都市公共交通充実化の骨太指針を1970年代に打ち出し、その後幾つかの法整備と補助金(公開入札による交付金供与は、2022年度まで計4回行われた)を準備しながら、現在のような、公共交通が整備された地方都市の姿につながりました。1980年代以降の交通に関する幾つかの法律は、勿論将来のヴィジョンを見据えて策定されたものも多いが、現実の変革を追いかける形で法律が策定されてきたのも事実だ。2019年末に策定されたモビリティ基本法も、100%化石燃料搭載の新車の販売禁止(2040年より)などの将来の方針と共に、近年急激に発達したスマホを利用した新しい形のモビリティに、規制を制定するために幾つかの条文も用意した。フランスのこの30年間のLRT導入の経由については、本誌では南総一郎・研究官が分かりやすくご説明されている。
・会場からのご質問では「LRT導入のデメリット、メリットの普遍的な尺度がほしい」「採算性度外視について、補助の根拠を計量化できていないのではないか」「事業の仕様について、定性的な検証が必要(たとえば、道路の中央に置かれる電停の安全性?などについて)」「需要との見合いの考慮(LRT導入と道路混雑激化との調整」があり、早稲田大学の森本先生もご回答されているが、今後さらに宇都宮市でのLRTが都市に及ぼす影響のさらなる検証が待たれるところであろう。フランスで都市公共交通を先行的に導入したストラスブールの成功例を見て、各都市が2000年代にLRT導入に続いたように、日本も宇都宮市が先例となると願いたいが、人口が一貫して上昇しているフランスと異なり、人口が激変している日本では、LRT以外の都市域内交通手段も視野に入れながら、交通という基本的な社会サービスを守る必要があると思われる。早稲田大学の近藤先生が述べておられるように、フランスは「社会インフラとしてなんらかの形で社会全体で支えるような構造」が上手くいった例で、宇都宮市の場合は需要が大いに喚起された事例だと。大きな意味での都市の土木政策に対する、社会の受容性(つまり公金を投与する。交通行動を変容することへの合意)がないと、車移動を削減しLRTやBRTを導入することも、さらにその先に見える多様な公共交通手段を利用するためのMaaSの活用や、交通状況のオープンデータを活用したスマートシティ構想なども難しいと思われる。
・さて、私の投稿記事は「モビリティ政策を包括した地域整備開発とその不動産プログラムについてーフランス・ナント都市圏中ノ島の事例」。ナント中ノ島については、「フランスのウォーカブルシティ」でも、ブログでも紹介してきたが、今回は新しく取材して、「不動産学会」を意識して一般住宅開発に焦点を宛て、中ノ島開発の最新の情報を追加した。開発が開始してすでに20年。これからもまだまだ進化する開発である。
・かつての産業遺産地域を活用したこれだけ大規模かつ長年にわたる開発計画が、自治体主導で一貫した哲学を持って行われ、タワマンなどが一切見られない、住民の住みやすさを考えたこのような不動産開発の在り方も、どこかで参考になることを願う。尚、ナント都市圏共同体の交通事業者naolib(かつてのSEMITAN社https://www.fujii.fr/actualites/%e4%bb%8a%e5%b9%b4%e3%81%ae%e5%a4%8f%e3%81%aevoyagge-a-nantes/.)で今年6カ月間インターシップを行った国交省の板垣ゆかりさんによると、「ナント中ノ島を通過するBRTや路線バス開発への投資は最優先で行われている」とのことである。
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