フランス最近のバス・BRT(1)ナンシー

27 04 2026 | Actualités ブログ記事, Bus BRT バス, Nancy ナンシー

・フランスでは人口が15万人以上の主だった都市にはすでにLRTが導入されたので(例外は地下鉄があるレンヌ市とツールーズ市)、近年はLRTよりもむしろ最新のテクノロジーを搭載したBRTの導入が盛んである。ストラスブール市に続いて、フランス東部のナンシー市の電気トロリーバス(スイス製)、パリに近いオルレアン市の電気バス(スペイン製)、南部のポー市の水素バス(ベルギー製)と、いずれも欧州全体から広く調達している新しいBRTを写真で紹介していきたい。

・パリから327Km 東に位置するナンシー市は、フランスで初めて日本と姉妹都市提携を金沢市と締結した人口26万人(都市圏共同体を含む)の都市で、かつて、フランス西部のカーン市と共にボンバルディエ社のトラムを導入した。2002年から走っていたTVR(フランス語で『専用軌道を持った交通』という意味だが、固有名詞として使われている)と呼ばれるタイヤトラムは、LRTよりも当時は整備コストが20%安と言われており、また登攀率10から12%の地区に専用軌道敷設を予定していた為に採用された(鉄輪トラムでも登攀できるが、ブレーキ利用率が上がるとレールの磨耗と変形により、インフラコスト高になる)。しかし、ボンバルディエ社のTVRは当時Innovatingとさえ形容されていて、世界で50編成しか製造されなかったTVRは、結局カーンとナンシーに納められたあと、生産が続かなかった。

ナンシー市駅前を走っていたかつてのTVR. 通常のバスのような無軌道運転と、レール上の軌道運転の双方が可能なシステムだったが、車輌にナンバープレートが必要であり道路法に拠って運転するので、むしろこれはBRTであった。

・2002年から営業運転を始めた、当初の見通しとは異なり、メンテや道路の再舗装などで結局鉄輪式トラム以上のコストがかかってしまった。この2つのデュアルモード・テクノロジー搭載は機体を重くし【32トン、5分ごとに8トンの荷重があるタイヤが道路を通過するため、道路にわだちが出来たので、コンクリート舗装が必要になった。そうなると景観整備上の工夫や緑化軌道は勿論不可能になる】、しかも第一路線の南北両端では必ず無軌道運転を強いられた。なぜなら北のコミューンSaint-Maxでは、当時の首長が車走行の妨げになることを案じて軌道敷設に反対したので無軌道運転になった。南端ではわずか8mしかない道路幅の道路で、無軌道運転のTVRと沿線住民のクルマが上手く共存していた。すでにhttps://www.fujii.fr/?p=3363で述べたようにフランス国交省は2010年に、『ナンシー市とカーン市における都市交通圏ネットワークの診断と見通し』レポートを発表し、政府は両市にボンバルディエ社車両の耐用年数経過後の運用方式の変更を強く勧めた。カーン市では2010年代当初に鉄輪式タイヤトラムへの切り替えを決定し、2019年から約16KmのLRTが運行している。

・一方、ナンシーではカーンと異なり、TVR車輌は都市共同体の固定資産なので、原価償却を最適化するために、新しいシステム開通は2022年が予定され、何年もかけてその選択に議論が重ねられてきた。候補には①鉄トラム、②トランスロール社のタイヤトラムなどが挙げられたが、トランスロール社のタイヤトラムを選べば、ボンバルディエ社製と同じケースになり一社に依存してしまう。だから標準化されており、しかも競争原理が働いていて今後のさらなる改善が見込める鉄トラムが有力視されていた。

・しかし、結局は第一路線のTVRの代わりには、電気トロリーバス(HESS社)が一挙に25台導入され、2025年4月から、5分間間隔で約10㎞の行程を走行している。名前はHess Lightram 25DCで紛らわしいが、これもトラムLRTではなくバスである。

電気トロリーバスHESSLightramの全容

・しかし、ナンシー市は第一路線のTVRにてこずっていたばかりでなく、BRT路線を2013年から2025年までの間に4系統導入した。24,4メートル車体の連接バスとして、Iribus社のCrealisNeo18(37台)やIVECO社のUrbanway 18(ディーゼル15台やハイブリッド16台など)、メルセデス社のCitaro(ディーゼル17台)などが走り、Hessトロリーバスの第一系統と合わせて128の電停がある(BRT路線5系統に対して)。また専用レーンを走らず信用乗車でない普通のバス路線が35系統あり、100台近いバスが走りナンシー都市圏共同体エリアでのバス停数は1068もある。バス全体にSTAN(ナンシー公共交通)という営業ネームがつけられ、毎年2600万のパーソントリップがあり、様々なバスで地域の公共交通を支えていることが伺える。日本の人口27万人の地方都市の公共交通の事情を考えると、驚くべき数字である。そして週末の土、日曜日の公共交通料金は無料である。

カラフルな装飾で走るBRT(トロリーではなく、ハイブリッドBRT)

定時サービス路線がない地域には、オンデマンバスサービス用のミニバス。 NancyではRESAサービスと名付けられていて、電話で予約可能。自宅付近から最寄りの公共交通停留所まで送迎。STANの定期券を持っていれば無料サービス。日曜日の運行もあり。

ナンシー市も中心市街地の歩行者専用空間化が進んでいる。

・このように都市全体の公共交通を充実化させながら、第一路線の新しい交通体系を模索していたわけである。ナンシー市の説明によると・

・同じ長さの車両の場合、HESS電気トロリーバスは車体コストがLRTより低い。LRT(例:(Besançon tramway)は230万ユーロ、トロリーバスは140万ユーロ(車体24mの一台のコスト)。路線インフラのコストは、全体でトロリーバスが1kmあたり1,000万ユーロ、トラムは2,000万~3,000万ユーロと試算された。保守設備(車庫)の投資コストもトロリーバスの方が低く、HESS社のバス25台全体に対して約400万ユーロで、LRTは約1,000万ユーロ。(BRT、LRT共に、24.5mの車体を想定した数値だがレールの有無による違い)

中心市街地のバス専用レーンを走るHESSバス。

フランスの中心市街地を走る公共交通は、5分から10分間隔での走行が多いので、時刻表が余り用意されていない。電停の電光掲示板には、何分後に次のバスが到着するかが提示される。ここでは1分後と5分後の到着が記載されている。

 

・交通システムの柔軟性。トロリーバスでは、充電インフラと架線をMIXすることが可能(ナンシー市中心部には架線がない)で、都市計画に合わせて容易に適応できる。例えば、10kmのトロリーバス路線を200m~1km延長することはLRTに比べて簡単。ナンシー第一路線では、地下にあるライフライン上、或いは道路構造が架線の重量に耐えられない道路には、バッテリー運転を採用している。

トロリーポールが架線から電力を集電中。(架線が設置された区間の始まりで)。

・HESS社バスでは技術パーツを屋根の上に搭載している為に車内にスペースが増え、TVRより輸送キャパが増え、150名。同じ車体の長さでTVRでは乗客数が136名。

Hessバスの広々とした内部

ベビーカー、車椅子スペース、高齢者用椅子が十分に設けられ車内

・登攀率・トロリーバスは路面が雪や氷などで妨げられていない限り、13.5%の勾配に対応できる。トラムは最大8.5%の勾配までしか対応できないとされている。

第1路線の南地域の坂道はトロリー運転。

・トロリーバス車両は同じ寸法のトラムに比べて電力消費が少ない。最大積載時の重量は39トン(道路交通法で許容されたMax重量)、乗客なしでは24トン。年間平均の電力消費量(冬季・夏季を考慮)は2.337kWh/km。

・トロリーバスの運転手は、通常の公共交通バスの運転免許(フランスではD型免許)と同じ資格でだが、それに加えて、安全性や運転技術に関する特別な訓練(8日間の研修)を、公共交通事業者(現在の契約は2026年末まで有効で、新しい期間の入札は進行中)であるKeolis社が行っている。Keolis全体では運転手は合計635名で、そのうちトロリーバス路線専属の運転手が54名。臨時でトロリーバスを運転できる認可を持つバス運転手が200名。トロリーバスを運転する場合、バス運転手には1日あたり3ユーロの手当が支給される。この運転手の人数も日本の地方の状況から見ると驚くべき数字だ。

ナンシーを訪問したクリスマス近い時期の中心広場付近の催し

子ども達が乗るためではなく、インスタレーション作品として置かれていた。こういう汽車文化が残っている。ポスターには「汽車に乗りましょう」「乗客入り口」

視察させていただいた東急グループの皆さんと、HESSトロリー電気バスの前で記念撮影

美しいナンシー市庁舎。当時のポーランド王で、ルイ14世の娘婿となったロレーヌ公爵スタニスラスが1755年に建築したスタニスラス宮殿の中にある。

 

 

 

 

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