- フランスとドイツを代表する環境都市にはさまれたミュールーズ市の選択
- ストラスブール市から汽車で1時間南のミュールーズ市には、日本の江戸時代にはもう鉄道が走っていた。世界を代表する17000M2の素晴らしい自動車博物館もあり、プジョーの工場では、1週間に10000台の車を生産している工業都市だ。人口は11万人しかいないが、経済圏には10万人の雇用人口をかかえる800余りの企業が自動車産業を中心としたクラスターを形成している。ミュールーズ市は欧州を代表するクルマ中心社会であったが、2006年5月に当時のシラク大統領を迎えて、トラムの開通式が華々しく行われた。近接するフランスのストラスブール市とドイツのフライブルグ市はどちらも環境都市としてそれぞれの国の代表格で、トラムを導入して見事にまちの再整備に成功した例が近隣に多かったので、車産業で支えられてはいるが、この都市でのLRT導入は比較的スムースであった。
-
とても素敵なたたずまいの街になりました
- それに市役所のスタッフが語るように、「プジョー車購買者は世界が対象で、ミュルーズ市民が公共交通に乗るようになったからと言って、車の売り上げが変わるものでもない」。交通税をめぐったミュールーズ市役所とプジョーの交渉については、『ストラスブールのまちづくり』73ページでも仕組みを述べたが、現在もプジョーは人件費全体額の1.8%にあたる440万ユーロを自治体に支払い、そこから自治体はプジョー社(PSA)に120万ユーロを返還している。従業員の約25%がプジョー社が準備する送迎車【運賃は無料であることが返還の条件】に乗っている勘定になる。実際には 市役所からPSAへの返済額には2.75%のバーゲンを行うかわりに、自治体はPSAへの立ち入り検査を行わない【調査すれば人件費が自治体にかかりすぎる】という交渉が成立している。このあたりの臨機応変さはいかにもフランスらしい。2011年PSAが従業員用に運行しているバスの費用が380万ユーロであった。確か、宇都宮市で工業団地のキャノンが用立てている額もそのくらいであったと思う。日本では交通税は存在しないが、将来の宇都宮LRT路線利用インセンティヴのために、社員のLRT定期券代を企業側が負担することなども考えられるだろう。
- ミュールーズの東西線14駅にはすべてアーティスト・ダニエル・ビューレンがデザインしたアーチが電停を彩り、鮮やかなプロヴァンスイエロー【地中海周辺の布地にみられる濃い黄色】の車体デザインを、2003年に住民の随意投票にかけたことでも知られている。3つの車体の顔デザインと2つのカラーから人気投票も行っている。正直言って、このアーチ型電停は写真で一部だけを見ると突拍子もない感じを受けるが、実際のまち全体の風景の中で捉えると大変美しい。
- まちの中心にあった決して美しいとはいえなかったボルワークタワーまで、徒歩、公共交通、車などすべての交通手段出アクセスできるように工夫をこらし、そしてカラフルな景観を整えて、雰囲気を一新させてしまった。ショッピング、ビジネスセンター、公共サービス地点としてまちのシンボル化され、23000M2のスペースの再活性化に成功した。勿論タワーの前にはトラムの駅が設けられた。だからここでもトラムと都心景観整備はセットで進められた。
- 思い切ったアーチ型の電停と共に一躍ミュールーズが注目を浴びたのは、2010年12月にフランスで初めて開通したトラムトレイン路線の22Kmだ。ストラスブールの北部のまちにもトラムトレインが走行しているが、これはドイツのトラムトレインがフランスの都市に入っているので、厳密に言えばフランスの地方自治体が運営する本当のトラムトレイン(郊外でのレール上の走行から、都市域内の道路上のLRT軌道にまで走る)はミュールーズが最初である。
街中を走るトラムトレイン(トラムトレインの車体はブルーで、黄色のLRTとの区別が分かりやすい)
- 実はミュールーズ市ではトラム計画よりも先に、トラムトレイン計画があった。1995年に市議たちがドイツに視察に行き、有名なカールスルーエモデルを見て、地勢条件(緊密な鉄道網が既存で渓谷部に村落が広がっている。)も類似しているミュールーズ市にも適用できないかと考えたのがきっかけだ。当時は都市交通案としてトロリーバス導入も考えていたようだ。
- 現在はトラムの16.2Km路線【駅数29】には1日約6万のパーソントリップがあり、トラムトレイン22Km【駅16】には1日5630人のトリップが2013年にカウントされた。トラムトレインの平均時速は29KM/hなので、LRTの22Km/hとそれほど変わらないのは、市内に乗り入れてからの運転速度が遅くなるからだろう。【続く】
0コメント