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  • 次は読売新聞の連載記事の一部です。
  • http://www.yomiuri.co.jp/local/tochigi/feature/CO006289/20140410-OYTAT50012.html
  • 高齢化見据え脱「車社会」

    宇都宮市はLRTを軸にした「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成を目指す。街はどう変わるのか。

    「自動車依存を見直し、公共交通を充実させ、持続可能で誰もが移動しやすい環境を整備することが重要」。佐藤栄一市長は3月定例議会の答弁で、街づくりの展望を描いた。東西を貫くLRTを基幹交通とし、バスや鉄道を連携させ、全域で移動しやすいコンパクトシティを作り上げる構想だ。

    全国の地方都市と同様、宇都宮市も人口増加と車の普及で居住地域がどんどん広がった。1960年に9048人だった1平方キロ・メートルあたりの人口密度は、2010年には5417人にまで減少。商業施設は高速道路のインターチェンジや工業団地周辺に相次いで進出し、都市機能の分散化が進んだ。

    しかし、市の予測では、市の人口は来年をピークに減少に転じる。17年には、65歳以上の人口は全体の25%近くにのぼる。誰もが車で自由に移動できなくなる中、市は徒歩や自転車、公共交通で移動しやすい都市に転換しようと、市街地の拡大路線から集約化にかじを切った。

    コンパクトシティの核となる都市拠点を強化するため進めているのが、JR宇都宮駅東口の開発事業だ。コンベンション施設などの整備を、16年度にも始める。さらに、今年度始めたのが、持ち家の取得補助金制度。中心市街地の区域内に住宅を購入し、転入する世帯に、上限30万円で費用の一部を助成する。中心市街地の商店街が空き店舗を活用して地域住民との交流を図る取り組みにも、新たに助成制度を設けた。また、地方拠点としては、北部の場合は岡本地域の機能を強化し、JR岡本駅の橋上化も進めている。

    地方都市間の競争に勝ち残り、佐藤市長が目指す「100年先も選ばれる街」になれるのか――。LRTは、宇都宮の街づくりの行く末も左右する。

    沿線活性化住民も期待 沿線の活性化も、成熟したコンパクトシティには欠かせない。

    スポーツ用品店を全国展開し、1月に本社機能の一部を宇都宮市に移転した「ゼビオ」は、社員や元プロスポーツ選手、市民が一緒に使える交流施設を沿線に整備できないかと構想を練る。諸橋友良社長は「LRTにはすごく期待している」と歓迎し、「LRTができれば、地元の大学との連携にも役立つ」と展望を語る。

    停留場が目の前にできる予定の作新学院大(竹下町)は、入学者増加を期待する。JR宇都宮駅から運行しているスクールバスは、朝夕のピーク時は1時間に5~6本あるが、ほかの時間帯は2~3本程度。学生からは常に増発を希望する声が上がっているといい、「LRTは本数も多く、利便性は向上する。今後、入学説明会でもPRしていきたい」と話す。

    ◇ネットワーク型 コンパクトシティ

    街の機能や人口が各地の地域拠点に集まり、それぞれの拠点がLRTや鉄道などの交通ネットワークでつながる都市。人口増で広がった都市機能を集約することで、高齢化で増える医療・福祉の需要に対応しやすく、行政の効率化も図れるとされる。

    宇都宮市は2月、「コンパクトシティ形成ビジョン」の中間とりまとめ案を公表した。都市拠点の中心は、JR宇都宮駅。地域拠点は14配置し、一つの地域拠点の大きさは、市のアンケートを基に、徒歩10~12分で移動できる直径1キロとした。また、特産の大谷石が採掘される大谷地区を観光拠点とし、清原や平出の工業団地などを産業拠点としている。

    国も、コンパクトシティ形成を推進する方針を打ち出している。2月12日には、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」を閣議決定。市町村が「都市機能誘導区域」と「居住誘導区域」を都市計画で定めることを可能とし、住宅や医療、福祉、商業施設などを適切に立地しやすいように法整備する。

    • 富山市のLRT沿線ではマンションが続々と建設されている(3月21日、富山市内で)=増田政幸撮影

    ◇集約化で富山振興 高齢者外出も 住宅着工も増

    富山市では2006年、コンパクトシティの核として、日本で初めて本格的なLRTが運行を始めた。8年が経過し、沿線の住宅着工数は伸び、中心市街地が活性化し、着実に効果は上がっている。

    富山市が目指したのは、生活拠点や都市拠点の「団子」を、公共交通の「串」が結ぶイメージだ。LRTの前身であるJR富山港線の時代は30分~1時間に1本だった運転間隔を15分間隔に増発した。停留場も5つ増やした。バス路線を停留場から接続させ、公共交通の不在地域がないようカバーした。

    その結果、LRT開業前と比べ、平日の利用客は約2・1倍(平均4815人)、休日は約3・6倍(3717人)にまで増加した。特に中高年層が増えた。週に2回は利用する市内の黒崎のぶ子さん(65)は「JRの時は不便でほとんど使わなかったが、今ではデパートなど市街地に行くようになった」と笑顔をみせる。

    効果は、沿線の住宅着工数にも表れた。市によると、05~10年の平均着工数は、開業前の04年と比べ1・29倍となった。09年12月には市中心部にもLRTを開業し、周囲にはマンションが3棟建設され、今後はシネマコンプレックス(複合型映画館)もオープンする予定だ。

    市都市政策課は「沿線で活発に再開発が行われ、住宅も集まっている。コンパクトシティ化は確実に進んでいる」と手応えを感じており、「高齢者の外出機会を創出し、引きこもりがちな人が減って健康的になることが期待される。将来的に社会保障費の抑制にもつながるのでは」としている。

    ◇フランスも人口・雇用増

    1994年に世界で初めて完全低床車両を導入したフランス・ストラスブールでは、人口や雇用が増大した。車に頼らず歩いて暮らせるようになり、街並みの整備も進んだ街として知られる。

    フランス在住30年のビジネスコンサルタント・ヴァンソン藤井由実さんによると、現在のLRTの総距離は40キロで計72駅。市内の人口は1999年から2006年にかけて毎年1・02%ずつ増加した。企業進出も進み、経済圏内の雇用も05年は1989年比で8・8%増えた。ヴァンソン藤井さんは、渋滞が解消され景観も良くなったと指摘し、「宇都宮でもぜひ実現させてほしい」と話した。

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