- 7月3日からフランスでのUBER POP の操業が9月末まで一時中止のニュースがバカンス前のタイミングで発表された。(フランスはバカンス出発の時期によって、7月組、8月組という表現がある。第一陣はこの週末にパリを中心とする都会を出発した。最も移動が多いのは7月の第二週末だが、すでに街のパン屋や肉屋なども閉店する店舗が出てきた。5年間日本にいたので、しばらく見なかった風景だ。)
- UBER
- 昨年度の6月にニューヨークで始めてUBERを使った。なるほど便利だと思ったが、フランスにも2011年に上陸していた。Uberは、スマートフォンで手軽に運転手付きクルマを呼べる配車サービスで、まず利用者はUberサイトにクレジットカード番号を登録し、スマホに専用アプリをダウンロードする。車が必要な時にアプリを開き地図を見て、利用者の一番近くにいるUberのドライバーと応答する。料金はアプリで自動的に決済する。ところがフランスでは激しいタクシー業者の反対に出会った。このUber は事実上タクシー事業を展開しながら、フランスでは高価なタクシーの営業許可を取っていないので、フェアな競争ではないということだ。
- VTC
- 元来パリのタクシーは認可制度でロンドンやニューヨークに比べて、人口当たりの台数が4分の1しかない。だから恒常的にタクシーが足らない。そこでVTC(直訳すると、『運転手付き観光用自動車』)システムが生まれた。ホテルなどで空港行きのタクシーを予約すると、あらかじめ料金を設定したクルマ(タクシーよりも高級車であることが多い)が来る。概してドライバーの態度が普通のタクシーよりも丁寧、クルマも必ず清潔なのでかなり普及し、2014年にはVTCビジネスそのものが合法化された。(2014年10月1日のla loi Thévenoud法)。「運転手には最低3ヶ月の訓練、Geolocalisationの禁止、メーター制ではなく運賃の走行前の設定」などが細かく法律で決められたが、利用者目線で分かりやすく言えば『請求される金額が前もって分かっていて、「流し」ができないタクシー』である。今フランスでは1万人の契約ドライバーが幾つか並存するVTCサービス供給会社と契約している。Uber社はそういった VTCサービスを提供している企業の一つになるわけだが、Uber社にはフランスでも圧倒的な存在感があり、アメリカ、イギリスについでUber利用者が多いといわれている。
- Uber POP
- ところが、合法的なUberサービスと併行して、フランスでも2014年からUber POPという、いわば非合法なビジネスが始まった。このUber POPはクルマを所有する誰もが運転手になれる(21歳以上、無犯罪証明書、免許書さえあればインターネットUber Popサイトで何分かの登録のみ)。Uber アプリをロードダウンして送迎サービスを行うが、運転手たちは社員としての契約や個人事業主としての手続きを踏んでいないので、いわば非合法なビジネスだ。収入も申告せず、生活保護を受けながら現金の足しにと、UberPOPビジネスを始める者もいる。社会保険負担金や所得税を支払わないので、合法的なVTC(Uberもその一つである)やタクシーより料金もずっと安い。当然利用客は増える。これに猛烈な反対をしたのがタクシー業界で、フランスのデモは残念ながら暴力化する傾向があり、この6月後半の2週間、各地方都市での道路が閉鎖されたり、クシー運転手がUber POP 運転手に暴力をふるったばかりか、乗客にも怪我を負わせ、政府も介入姿勢を明確にすることを迫られていた。アメリカのロックスターCourtney Loveがパリの空港に向う道路で、タクシー運転手の抗議デモに巻き込まれ、全く動けなくなった時にツイッターで『オランダ首相、何とかして欲しい』とつぶやいたその姿はフランスの夜のメインニュースタイムに報道された。確かに、外国人観光客にとっては信じられない光景だろう。
- 欧州の他の国では知らないが、フランスでは『ハイテクを駆使した新しいビジネス』と『既得権にひたっているタクシー業界』の戦いだけなくて、運転の素人である一般人がタクシーの仕事を行い、税金や支払うべき各種の社会負担を抜けようとするシステムが標榜の対象になっている。フランスは社会保障の従業員負担率が給与に対して21%(日本は14%)、雇用者負担が42%(日本は15%)という人件費の非常に高い国だ(AFI フランス投資庁発表数字)。 皆さんは良くフランスのレストランで、サーブするスタッフが非常に少ないことに気がついたと思うが(つまりサービスが悪い)、それは人件費が高いからである。フランスはまた労働法で労働者が手厚く保護されており、雇用側からみると『解雇しにくい』。だから簡単に人を雇えない構造になっている。そこにUberPOPのような需要と供給が入り込む余地がある。
- しかし、高額の税を徴収して富の再分配という形で、公共交通や保育所など多くがその利点を享受できる社会インフラを整備してきたことも事実だ。教育費も大学卒業まで基本無料である。こういったシステムを支えている税金を支払っているのも国民である。全部で17か条しかないフランス人権宣言が、租税について2か条をあてており、「課税に対して基本的なサービスを国が国民に保証する」という近代市民社会の契約がフランス社会のベースになっている。だからこのUber POP課題は、交通業界だけでなく、たとえスマホを全く利用しないフランス人がいても、又交通に興味が無いとしても、多くの人にとって身近に感じることのできる社会問題ニュースなのだ。
- 幕引きはあっけなかった。アメリカのUber本社からの通達に従って、「7月3日の夜8時からUber POPの操業一旦停止」をフランスUberの社長が表明した。この判断はフランスの憲法評議会(Conseil constitutionnel)で9月に このビジネスモードが合憲か否かの裁定が出るまでの間の一時利用停止である。しかし、すでに40万人の利用者がいるという。はたして、このままUber POPの利用はぴったりとなくなるのだろうか?
- そしてアメリカのUber モデルと全く違ったコンセプトで、クルマの新しい利用(消費といってもいいだろう)形態を社会に問うてきたのがフランスだ。次はカーシェアリング(自動車の共有利用・会員制)とビジネスとしても大成功を収めているカープリング(自動車の相乗りシステム)について。
このーシェア『共有』ーが新しい世代のキーワードのようだ。
私自身もまだ情報を整理中なので、このUberに関する内容の信憑性は各々が再確認されることを願います。
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