・雪が降ったかと思えば、昼間の気温が18度まで上がる気候不順なパリの秋。11月5日からパリ中心部に交通規制区域(ZTL)が設定され、市内中心部の通過交通が禁止となった。対象地区はパリ中心(Paris Centre)と呼ばれる統合された旧1.2.3.4区である(パリの旧1区から4区が統合されて,今ではパリは17区しかない。)
・ZTLは正式にはZONE A TRAFIC LIMITEで、交通制限ゾーンを意味する。当初の予定を遅らせて、パリ市議会はオリンピックを考慮してこの11月からの実施に踏み切ったとされている。パリ住民とすれば、オリンピック前から続く厳しい交通規制を経て9月のオリパラを終えて、この2か月の間やっと交通が元に戻ったかと思えば、ZTLが実施されたということになる。考えてみればかなりの不便に対する、車を利用する人たちの「慣れ」や「あきらめ」を当局は上手く利用したのかもしれない。この規制地区に、配達、医療予約、商店、企業、レストラン、劇場の利用客、友人や家族に会いに行くなど、地区内に停車する場合は勿論侵入が可能だ。つまりたとえば、南の14区から北の19区に行く折に、これまではパリ中心部を通過するのが早道だったが、これからは通り抜けることができなくなるということだ。(規制対象は自家用車のみで、自転車やタクシー、公共交通機関、配送車および緊急車両、及び区域内の住民の自家用車は対象外)。しかしレシートやチケット等を提示しなければならず、パリ市のサイトでは6か月の啓蒙期間を認めるとしており、違反者には25年4月より135ユーロの罰金が課される予定だ。啓蒙期間中に、パリ市とパリ市の交通管理者でもあるパリ警視庁(Prefecture de Paris)で、取り締まりの具体的な方法を考案するとしているが、実際にはどのようにして取り締まるのであろうか?たとえば友人に会いに行くことを、どのように証明するのだろうか?
・このゾーン設定の目的は、環境保全(自動車交通削減による大気の質の改善)と市民の安全確保である。車に占拠されている公共空間を、歩行者、自転車利用者、バス専用レーンなどに再配分する都市空間の再編成も目的だ。「要するにパリ中心部は観光客が歩きやすいような区域にするわけだ」とテレビでコメントする市民もいるが、30年以上前からパリを歩いている筆者からみれば、パリ中心部は確かに格段に静かになり、歩きやすくなった。イダルゴ市長政権第二期目(2020年から)以降、特にその傾向が顕著だ。道路空間の車の数が減って、セーヌ河沿いの美しい歴史建築物はさらにその姿が明瞭になり、コンコルド広場からルーブルまでのセーヌ川沿いの右岸道路(セーヌ河畔の歩行者空間になった道路ではなく、地上の道路)では車道スペースの一部が植栽を施した自転車専用道路になっており、そこをジョギング、歩く人も多く、セーヌ川の対岸の建造物や近づくチュルリー公園の美しさが目に入る。オリンピック後にはエッフェル塔前の通りも歩行者天国になり、当たり一面は緑の公園になった。
筆者はZTLがすでに導入されていたミラノに2019年から2022年まで住んでいたが、いわゆるCゾーンと呼ばれる通過禁止区域の大聖堂付近に侵入する必要がある場合は、前もってインターネットで進入料金を車の番号と共に登録する。ミラノ郊外の自治体でも、一度知らずにZTL区域に駐車した際には、きっちりと違反料金の請求書が届いた。イタリアではトスカーナ地方の人口1万人以下の村でも中心部はZTLで、タクシーを利用しない場合は、村の縁部にある駐車場にマイカーを止めて、スーツケースを引きながら宿泊場所に歩く観光客の姿をどこでも見た。
・しかしZTL設定は、拙著「フランスのウオーカブルシティ」でも紹介している「あなたの地区を美しくする」プロジェクトで、パリ中で実行している道路空間の再編成の延長線にあるとも言える。要点は一つ。車走行の抑制である。
・さて、クリスマスが近づき、プランタンやギャラリ-ラファイエットなどパリのデパートの例年のウインドウ・デコレーションが始まった。今年は「旅」がテーマのウインドウもあり、環境を意識したか、「汽車」が背景になっている!
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