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ストラスブール市の新市長は緑の党・38歳の女性。フランスの市長選挙

30 06 2020 | Actualités ブログ記事, France こんにちのフランス, Lyon リヨン, Paris パリ, Strasbourg ストラスブール

6月28日に、3月末の市長選挙で過半数を獲得した候補者がいなかった約4800の市町村で、決戦第二回投票が実施された。フランスには市町村の区別はなく、コミューンと呼ばれる最小の行政単位が35000あるが、人口1万人以下のコミューンが半数を占める。人口が215万のパリ(首都圏は約1300万人)も、人口が1000人の村もすべてコミューンと呼ばれる。

3月15日に第一回投票が行われたが、この夜に企画された政治番組ではもっぱら話題は各政党のコロナ対策になってしまい、本来なら3月22日に予定されていた決戦投票は6月に延期された。フランスもイタリアと同様、かなり厳しいロックダウンを4月から5月にかけて7週間実施したが、それでも死者数は3万人を突破してしまった。

さて、今回の選挙では、ストラスブールやリヨン、ボルドーで、EELV (ヨーロッパエコロジー・緑の党。以下「緑の党」と記載)が擁立した新市長が誕生した。まずは緑の党が擁立した38歳の候補者が新市長になるストラスブールから。

ストラスブール市・38歳の緑の党候補(他党との連立無し)が新しい市長。2014年から市議会議員を務めていた。2014年から筆頭副市長であり、CTS(ストラスブール交通公社)の理事会長でもあるアラン・フォンタナ氏は最終的には34,95%しか取れなかった(上の写真の数字は28日午後22時のテレビ局フランス2の報道した推定値ですが、実際の結果数字は若干異なります)。1992年にやはり若くして市長になり、フランスで初めてトラムを導入した現在69歳のトロットマン氏は23.33%。(映像はFT2より)

 

マクロン大統領の中道与党・LRM(共和国前進)が擁立した候補は、パリ市をはじめ敗北した都市が多い。それをとらえて「2022年の大統領再選をめざすマクロン大統領は、地方での足元固めに失敗した」と報じるメディアもある。ただ、現内閣の首相であるエドワード・フィリップ氏は地元のルアーブル市(Le Havre)で、58.83%という高いスコアで当選した。コロナ対策実行戦で見せた落ち着いた誠実感溢れる態度に、国民の信頼度は高いようだ。

パリでは中道左派で社会党の現職イダルゴ氏が再選されたが、イダルゴ氏が過去6年間に実行してきたパリ大改造計画(代表的な広場から車を排除して歩行者空間化。車線を自転車専用レーンに転化など)は、環境保全を目的として「歩けるパリ、息ができるパリ」を目標としており、イダルゴ氏は早くから「緑の風」を上手くキャッチしてきたともいえる。「対抗相手陣が弱かっただけで、決してイダルゴ氏の政策に全面的に協調した票ではない」という見解も発表されているが、パリ中の自転車専用道路や歩行者空間整備工事のために続く果てしない交通渋滞に、あれほど声高に「イダルゴ市長は次の選挙で負ける」言われていた意見は、投票結果を見る限りは少数派だったようだ。

右派から立候補した元法務大臣のダティ氏を大きく切り離して当選。パリ市長選の主要な3候補は女性であった。

歴史的に右派が強かったボルドーでも緑の党が躍進した。緑の党の現職グルノーブル市長も再選された。

またリヨン市では。

リヨン市も暦年の市長たちが(前市長73歳のコロン氏はマクロンを大統領選当初から支援し、2017年から2018年まで内務大臣を務めた。今回はコロン氏の擁立した候補は2位にとどまった)、長年にわたって公共交通導入、歩行者空間の整備に取り組んできたが、市長選では緑の党が大勝した。

 

しかし今回の選挙の投票率は41.6%という歴史的に低い数値であった。フランスのコミューン首長の選挙は、フランス人の日常生活に最も関与する選挙で、通常は最低でも60%、時には80%近い投票率がある。中央政府の政治家には強い不信感があっても、地元の市長には多大な信頼と親近感を持っているのが、フランスの特徴でもあった。まだ細かいデータは出ていないが、コロナ感染を案じて高齢者層の投票率が特に低くなったわけではなく、いつも通り若年層の無投票率の方が高いそうだ。だから、国民全体が年代を問わず投票所に向かわなかったことになる。

今回の第一回投票と決戦投票の間に、ロックダウンがあった。その機会に、多くのフランス人は大きなスーパーでのまとめ買いから、歩いて行ける範囲での小型店舗やネットによる生産者直売による食料品購入にシフトし、図らずも消費社会を見直す機会となった。スーパーで安く買えるケニアから運ばれる「さやいんげん」ではなく、少し高めだけれど地元で取れた美味しい野菜。つまりグローバリズムからローカリズム、消費(大量移動)から環境保全(地産地消)へと、人々の関心が少しづつ向けられることとなった。移動に関しては、すでにフランス政府は、「多数の短距離航空便の恒久廃止」(具体的にはTGVによる移動が所要時間2時間30分以下の地域へのパリからの航空便の廃止)を6月末発表した。そんな時代になってきたのだ。

しかし、選挙での出口アンケートでは、フランス人の関心は、変わらず「雇用の確保(失業問題の解決)」「社会保障の維持(各種手当の保証)」が上位で、環境問題が決して大げさに取り上げられているわけではない。緑の党は、民主主義(社会の格差を縮小させたいので、より広範な国民層の意見を汲み上げる)、連帯主義(つまり税の再配分を通して、社会保障をさらに充実させたい=ロックダウン中に一時失業した就労者に給与の80%のを保障したのは、EUでもフランスだけだ)を訴え、その上での環境保全を訴えてきたことが、今回の選挙の結果につながったのだろう。ヒッピー然とした菜食主義者の緑の党の人間はもはやいない。これからは、農業や畜産問題(農薬の処理、持続可能な経営)、新エネルギー確立と老朽化してゆく原子力発電所の解体テーマ、産業廃棄物処理などの課題で大企業や金融界、EU連合を相手に議論できる、新しい緑の党の旗手が必要とされている。自転車専用道路や歩行者空間整備は、緑の党の政治家だけでなく、党派を問わずどの政治家もフランス中の都市で実行してきた。これから緑の党に求められるのは、コロナ後の新しい社会の在り方を示すことのできるリーダーの育成だろう。いろいろと考えさせられる選挙であった。

2020年統一地方選挙。緑色=緑の党  ピンク=社会党  オレンジ色=共和国前進(大統領の党) 黒色=国民連合(最右翼) その他は連立で候補者を擁立。フランスの政治マップは複雑、分断化されてきた。典拠=https://www.capital.fr/economie-politique/elections-municipales-2020

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