- 交通ビジネス塾での質疑応答では、やはりLRT導入初期の合意形成と他の交通機関との調整などに質問が集中し、未だにLRTを中心とした都市公共交通の地方都市への導入が困難である日本の現況が浮かび上がりました。
質問・2週間だけ、ストラスブールでフランス語の研修を受けたことがある者です。独仏の融合した独特の文化に不思議な魅力があったのを覚えています。ストラスブールは、戦前はドイツ領であったと聞いていますが、かつての紛争の地が観光地となるためには、何か地元の人達や政府の秘策があったのでしょうか?EU本部の設置についても、独仏間の軋轢等なかったのでしょうか?また、今後の日本へのヒントを頂けたらと思います。【写真下・右側が28カ国参加のEU連合の議会場・今年7月の28番目の加盟国はクロアチア・左は欧州47か国が参加する欧州評議会の建物】
藤井・EUの機能はブラッセル・ルクセンブルグ・ストラスブールに分散しているが、議会機能がストラスブール市街地北部に位置し、2008年からこの議場までLRTが走っています。【写真下・EU連合議会場の前を走るLRT路線は、上写真の運河沿いに整備され、線路脇と運河の水レベルの双方に、自転車道路と散歩道が共に敷設された】
しかし、ストラスブール市のLRT導入当初は市民病院や大型スーパーなどに電停を設け、EUは特に意識していなかったし、資金も受けていなかった。ただし、ストラスブール市とドイツの対岸側のケール市にかかる人道橋建設にはEU補助金が出ました。
【写真上・EU資金を投じて建設されたライン河にかかるヨーロッパ橋・徒歩と自転車専用。ドイツ側からフランス側公園をのぞむ。写真右方向に、ストラスブールとドイツ対岸都市ケール市を結ぶLRTの延長工事が進められており、延線を見越して、新しいマンションの建設工事が始まっている】
まず、所得の低い住民が住居する地域に、公共交通を引く。このような政策をフランスでは「VOLET Social・社会的側面」を重んじた政策と呼び、「交通が不便なところにLRTを入れて、社会の融合性を進めることが、社会サービスの一つ(住まいのゲットー化を避ける)」と考えています。これをフランス中の地方都市で施行していますが、このあたりは日本との政治の違いでしょうか。
【写真右・市街地から南西へ向かうB線の延長線が、最近完成した。明るい電停と植林により、元来は高層ビルが建っていただけの殺風景な郊外景観に、風通しの良さを加えた】
質問・ストラスブールの都市計画によって、都市計画以外に相乗効果があった点と計画通りにならなかった点について。
藤井・相乗効果があった地域としては、南の治安不安的地区にあえてLRTを通して、LRT沿線の副都心開発を進めたことです。 まちは汚くなると余計に市民は気をつけなくなるが、美しい景観には市民も自然とそれを守ろうという態度になります。ヌーオフ地区のかつての団地の1階は真っ黒でしたが、今では見違えるほど清潔になりました。(拙著を参照してください) また設立時から5年間の法人税などの免除するという類の社会負担軽減のインセンティヴを導入して、中小企業を誘致して区域全体のまちづくりに務めてきた。 そしてまず自治体が率先して、雇用創出を期してバスの新しい車庫をLRT沿線に建設しました。
計画通りにならなかった代表例は、ストラスブールでは2000年代に、トラム第二期工事で反対運動家たちが行政裁判所に提訴して、工事が18ヶ月停止した事実があります。企画の公益性を認める公益宣言(DUP)の不備をついた裁判ですが、実際には当時の政権の野党側がかなり政治的に動いていました。詳細は拙著で、当時のケラー市長のインタビューを通じて述べています。しかしこの経由を経て、ストラスブール市としては、より市民に近い丁寧な事前協議の手法を工夫するようになりました。
質問・PFIとPPPによる都市計画と交通インフラの一体的な推進の可能性について
藤井・ランス市では35年の委託契約で、 インフラ整備から運行サービス営業まですべてを任せた民設民営方式をとっているが、しかしこの運行会社そのものに自治体も投資している。【https://www.fujii.fr/?p=2352参照】
質問・ストラスブールやグルノーブルといった成功例の後、フランス各都市にLRTが続々新設されていますが、反対運動や「バスの利便性向上(BRT導入なども含め)で十分」といった批判などはなかったのでしょうか。
藤井・フランスでは人口15万以下の都市では、LRTではなくBRTをという推薦をCERTU【国立交通研究所】が行っていますが、「LRTを入れるとまちが美しくなるという概念が浸透していて、市長や市民がLRT導入を希望している」のがフランスの特徴です。
【閑題・このCERTUがBRTの定義を発表しているので、紹介します】
ストラスブール市でも、現在BRT路線の工事が進んでおり、今年度末に開通の予定。【写真下・工事中のBRT 路線・ BHNS(フランス語で高度サービスバスの意味)工事中との標識。右の線路は車庫入りするためのLRT用の線路。舗道に隣接しており、この舗道を歩いているとすぐ隣に空車両のLRTが走行する。】
また、現在合意形成が終わった北の新路線敷設では、鉄軌道、ゴムタイヤ軌道、BRTの3つの選択肢を問うところから、合意形成を2年掛けて行い、この夏に鉄軌道に決まった。日本だったらコストを低いもの、ということこで、BRTになるかもしれないが、『自分たちのところにもちゃんとしたLRTが欲しい』という市民の声が多かったとのこと。これも民意の合意である。
質問・ストラスブールの地域合意形成の特色、日本への適用可能性についてお聞かせいただければと思います。
藤井・法整備と合意形成と両輪で進めてゆく必要がある。市民の声をすくうだけでは、何も進まない。情熱だけでは不足。関連者の決意とやる気も必要。日本は技術的に問題は全く無いと察するが、都市交通運営の税金負担に対する公的な受け入れ感を浸透させることが必要ではないだろうか。
このあとも続いた質問というよりはコメントをご紹介いたします。交通まちづくりに関心が高い方がたと、そうでない一般市民との間の「温度差の違いをこれからどう埋めてゆくか?」、が大きな課題ということはご参加者が共有されている認識だと感じました。
コメント・都市景観からの観点からの交通の話は素晴らしいが、景観などは定量化できない最たるもので、わが国では道が遠い。と思わざるをえない。霞が関にいると地方からの道路に対する要求が多いのがまだまだ事実だ。いわく、救急車などのために道路を、など。
藤井・道路の整備に対する自治体からの要望が多いと言うのは交付金がでるからではないか?また自治体を支えている議会や地元の要望の背景があるのでは? 数値化、定量化する必要は分かるが、LRTはこれらができないからこそ、世界の潮流になっているのではないだろうか?。
1989年のストラスブール市長選では交通渋滞解消のために 地下鉄かLRTか?が論戦になった。地下鉄派は景観整備をする必要がないからこそ、高架かトンネルでと考え、出来るだけ車の走行を妨げない、ということに重点を置いた。市長に当選したトロットマン氏はむしろ『地表を変えたいからこそLRT』だと論戦をはったが、日本ではこれは 説得材料としては弱いかもしれない。むしろ数値化された費用対効果が重んじられる日本ならば、富山市長の『都心に公共交通を導入して、住まいを集約化した結果、固定資産税納入の増加』などの情報を紹介することも有効ではないか?
ただ、なぜ、富山に続く都市がないのか?という素朴な疑問が残ります。こんなにフランスへの日本からの視察が多いのに。
コメント・こういった集まりには問題意識が高い人が出席するが、日本全体から見ればそれは一部に過ぎない。「日本では道路整備に対する要求が依然と大きい。」のが事実だ。
藤井・しかし地方都市にいくと誰も歩いていない。危機感の共有が何故ないのか?
コメント・LRTや鉄道で再生できるという意識を持っている人が少ないのではないか?
藤井・じゃ逆にどういう方法で地方都市を再生すると考えているか?
コメント・そもそも日本には「交通手段で何とかしよう」という意識がまだ育っていない。それよりもまず、「公共予算を増やせ。」という要求が多いし、一般市民には、「まちづくりへの回答として公共交通導入」という発想がない。
藤井・世界を代表する鉄道大国で、「日本のほうがサービス完璧の鉄道が走っている。」のが事実なのに?
コメント・鉄道が走っている人口密集地以外の日本の地方では車以外の選択肢はない。バスも郊外から片道600円だから市民はあきらめています。
藤井・でもフランスでもそうだった。だからこそトロットマン氏はLRT導入を考えたわけです。其の発想にはならない?
コメント・やはり政治家は最終的には選挙にプラスになるか?どうかを考える。市民が本当に公金を投与した公共交通導入を望むようにならないと、事態の改善は難しい。
と、このあとは懇親会でも議論が続きました・・・
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