- 富山市に関する本はすでに多く出ていますが、このたび東京大学出版会が刊行した『コンパクトシティのアーバニズム』を、「コンパクトな街づくり研究会とコンパクトなまちづくりの誕生」と「富山ライトレールとコンパクトなまちづくりの初動形成」の項を執筆された深谷伸介氏から頂きました。
- この本は富山のLRTだけではなく、富山市の都市政策全般をとらえています。「コンパクトなまちづくりの全体像を1つの現代史として記述」「コンパクトなまちづくりの原点から現在に至る展開の広がりまでも歴史的に把握すること」「そのような都市政策の成果を感知し、表現することを目的としている」(紫色の文章は、編者の中島直人准教授の表現から)本当に読み応えのある本です。
- 最初にはっきりと中島先生は「執筆陣のほとんどは研究者で、富山市のコンパクトなまちづくりを実際に担ってきたわけではない。」と明言されている。そんな中、森市長と京都大学名誉教授・富山大学教授の中川大先生とのインタビューは、当事者にしか知ることのできない生き生きとした証言となっており貴重だ。しかし、執筆陣は「あくまでも少し距離を置いた視点から記述している」が、編者は「そのような視点で初めて語れることもある」としている。つまり、「富山という都市の経験的産物(コンパクトシティのアーバニズム」から日本の都市計画、都市デザインは何を学べるのかが、本書が最終的に議論したいことなのである」と、富山に続く都市モデルを問いかけている。
- 「そろそろ、哲学が都市計画に、都市に何をもたらすのかという問いを再召喚してもよさそうだ」。私は中島先生のこのお言葉と同じ趣旨で、『首長が都市像のヴィジョンを持ち、それを行政とシェアして、市民との合意形成を通じて育て上げている、フランスの地方都市の事例』を紹介してきた。そのようなことは可能であると。森市長も持ち続けてこられた「ぶれない哲学*は、都市構造の変革、都市空間や都市生活の変革をもたらす。都市計画が哲学を持つということは、都市計画が機械や仕組みではなく、本来の人間になるということである。」*そういえば、「市長さんがあんなに言うてはるから、最後には市民の方で、ちょっと市長に任せてみてもいいのでは、と言ってくれた」と市長自身からお聞きした。それくらい、森市長は合意形成の住民集会を重ねられた。
- 「市民と都市計画との関係が変わり、都市計画は自分たちが付き合う仲間となり、都市の未来を意識し、都市に対して前向きに行動していく人たちが生まれる。」都市計画に対する哲学があり、その実行を支える法整備と行政のシステム、成熟した市民対象の合意形成の場が整っているフランスの事例を、土木学会秋大会で発表するために、指導していただいている中川先生や本田先生のおられる富山大学からZOOMで参加しました。先生がた、大変お世話になりありがとうございました。
- 大会で発表するのは、土木学会にこれから提出する査読用論文の要約だけであり、また大会では一人1本の論文しか発表できないので、もう一本の「地方都市の賑わいをもたらした都市空間の再編成の政策・フランスの事例」の方は本田先生にご発表いただいた。自分の執筆内容の要旨を的確に切り取って、まとめて頂く過程を見せていただいたことも大変参考になった。本田先生が発表された分科会の方は、LRTがテーマであったために、発表者のほとんどの方は、かつてお会いしたことがあったり、大変お世話になった旧知の方ばかり。ZOOMではなく、長野で直接お会いできなかったのが一番残念だったのは、多分海外在住の私だろう。
- これで3回目の訪問となった富山。森市長は来年勇退されることを発表されている。時期市長への期待は?との質問に対して、「政策的に大きくぶれないことです」「市の職員の中でこれだけ共通認識を持っているから大丈夫」(市長のお言葉)。そう、都市計画の実行部隊である行政が、都市像のヴィジョンの共有しておられるのは素晴らしい。市長はご勇退後、梨栽培をされるそうです!
- 以前にまとめた富山の記事は下から続けて5本あります。
0コメント