ページを選択

都市封鎖からの出口戦略 3)フランスの場合

30 04 2020 | Actualités ブログ記事, Bicycle 自転車, Paris パリ, Public Transport 公共交通

都市封鎖からの出口戦略

3)フランスの場合

イタリアの都市封鎖解除発表の2日後、4月28日にフランスも5月11日からの都市封鎖解除を発表した。イタリアと同じようにあくまでも段階的な解除で、レストランやバーなどの営業は6月から、集会やイベントなどはこの夏も禁止など、骨組みは似ている。最大の相違は、イタリアは「すべての学校は9月の新学期まで休校」としたが、フランスは5月から段階的な開校に踏み切ることだろう(5月11日から幼稚園、小学校。18日から中学校。高校は未定)。イタリアは日本と同じく少子高齢化社会(2019年出生率1.29)で、20歳から60歳までの女性人口の就労率も50 ,3%(2019年ISTA)。60%の女性が就労し、子供が2人や3人も珍しくないフランス(出生率1.87・2019年INSEE)とは、開校に対する要求度が違うのかもしれない。確かにフランスからイタリアに来ると、街かどで子供の姿や子供用品の店舗が少ないと感じる。

都市封鎖前・4月21日のFRANCE2映像

都市封鎖以降は10人の感染者から2.5人までの感染者へと減少。

 

 

 

 

都市封鎖前は10人の感染者が109人に拡散したが、封鎖後は10人の感染者に対して2.5人の感染者となった(4月21日時点)。そして集中治療ICUベッドの占拠数が、5月11日には1900くらいにまでなることを予測している。もし、解除後、感染が再拡大しICUベッドの空き数に余裕が少なくなれば、ロックダウンとまではいかないが、外出規制はいつでも再発動させると、首相は強調した。だから、フランスでは感染率やICUベッドの空き数などの客観的な数字に基づく現状に従って、それぞれの州内で許可行動の内容を調整する。

集中治療室における患者数・3月3日から4月26日まで。こうして、医療崩壊を防ぐためになぜロックダウンが必要なのか、国民に分かりやすく説明している。FRANCE2映像

現在は一週間に25万件実施しているPCR検査も、5月11日からは毎週70万件実施できる準備をしている。免疫をチェックする血液抗体検査は、その信憑性がまだ確立されていないとして、言及はなかった。またスマートフォンのBluetooth機能を使って濃厚接触者を割り出す「StopCovid」と呼ばれるアプリの採用については、さらなる議論や開発が必要であるとした。ちなみにこのシステムはロンバルディア州(ミラノ)ではすでに導入されているが、スマートフォーンへのダウンロードや観戦情報の記入はあくまでも任意である。

  • 「現状認識」
  • 「出口戦略の基礎概念」」(「ウイルスと共に生きる」,「段階的」,「地方毎に」ロックダウンを解除する)
  • なぜこのような出口戦略を取るのかその目的(5月11日以降は、「防御,検査,隔離」)

首相は以上を順を追って明快に説明し、国民一人一人が節度を持ち、Social Distance(人との間隔)、マスク着用を守りながら、外出コントロールを続けるように語った。それでもフランスの場合医療現場さえマスクが足りず、国民は政府への不満の声が大きい。今までは輸入に頼っていたが、現在国内生産を増やしつつあり、5月11日のロックダウン解除日までには、全国民にマスクが行き渡るとしているが、さてどうなるであろう。一方、イタリアでは国内の製縫工場で早くからマスクの生産に乗り出しており、薬局に行けば、ありとあらゆる種のマスクが様々な価格で販売されているが、これも5月4日からは外科マスクは一つ50サンチームと決められた。自治体によっては、行政がマスクの無料配布をすでに行っている。大都市ミラノでは慢性疾患罹患の証明書を持っている市民のみが、無料マスクの配布を受けている。

そしてイタリア、フランス両国ともに学校、医療確保に次いで大きな課題が、経済活動を支える移動と交通政策だ。

車での移動

フランスでは、自宅から100KM以上の距離の移動は禁止とする。これは5月、6月は宗教的な行事や祭日が多いので、人々の遠出を案じているからだ。この夏まですべての結婚式も禁止した(市役所で民法において結婚契約を交わす儀式が、日本の婚姻届けにあたる。地方自治体において国を代表する首長が結婚式を行う。結婚式は市長や村長の大事な仕事の一つだ。教会での結婚式や、招待客とのパーティなどのセレモニーだけでは、法的な結婚は認められない)。実際にどのようにコントロールするのかは、早くも議論の対象になっている。100KM以内に海がある都市が多いが、海水浴場はすべてアクセス禁止と、政府は先手を打った。

公共交通での移動 (パリ首都圏のすべての公共交通の事業主体は、イルドフランス州政府)

パリ首都圏の主な都市交通運行業者であるRATPは、都市封鎖の間は30%運行しており、トリップ数は地下鉄だけをみると50万。5月11日以降は通常運転の70%運行を目指す。しかし、Social Distanceを守ると70%運行では到底、通常のトリップ数をこなせない。郊外から首都圏に就労者を運ぶ郊外列車の運行事業体SNCFは50%運行の予定だが、同じくそれでは普段の15%しか輸送能力がない。どちらも、在宅勤務の続行と、時間差出勤を期待している。たとえば中学校、高校は始業を午前9時以降と設定する。長距離輸送のTGVは、都市封鎖の間は通常の7%しか運行していないが、100KM以上の移動を禁止する政府は、解除後はさらに減便することを考えている。つまり供給を減らして需要を抑える。

こうして、公共交通は公益サービスの代表として、国を挙げての出口戦略が考えられている。

フランスの地下鉄、トラム、郊外列車に多い座席配置の形。日本やミラノのように、車両に横に並列した座席は少ない。FRANCE2映像

他にはイタリアと同じく細かく利用条件が支持されたが、労働組合からはとても実現不可能だという声が早くも上がっている。(1.マスクの着用が義務付け。警官のコントロールも予定されており、マスクを着用しない者は、車両に乗れない。2.Social Distanceの遵守。(足元のマーカー・ペイントも予定されている)3.地下鉄では2人座席に一人着席など)

自転車での移動

パリ14区で実施される自転車専用道路の予想図・FRANCE2映像

人口1300万人のパリ首都圏(イルドフランス州)では通常一日に約1200万の公共交通トリップがあった。たとえば、すべての輸送機関(列車、トラム、地下鉄、バス)で、Social Distanceを守ると最大でも200万トリップくらいしか輸送できないと試算されている。残る1000万トリップ、つまり約400万人の公共交通利用者が代替え手段を見つけなければならない。

そこで、「Tactical Urbanisme/戦略的な都市計画」の一つとして、ミラノと同じくイルドフランス州政府も、自転車専用道路整備を発表した(予算3億ユーロ)。「戦略的な都市計画」とは、ローコストで暫定的な形で都市環境を改善する試みを指す。投資コストのかかる重いインフラを整備するのではなく、必要に応じて変更できる軽く暫定的なインフラを整備しながら、都市の状況に応じて人や車の動線を適応させてゆくことだ。パリ市内の住民約210万人の70%は、通勤に2.5Kmしかかけていない。だから郊外から来る人は公共交通から車にシフトするかもしれないが、せめて市内の居住者には移動に自転車を利用しやすいように、街の道路を改善してゆく。必要なのは、スコーン、バリケード、地面のペイントなど簡単なものばかりだ。

従来の2車線の一本を、自転車専用双方向道路に整備する見取り図。作成CEREMA・FRANCE2映像)

 

戦略都市プランは自転車道路だけではなく、都市空間の再編成も含む。ミラノも同様だが、かつての駐車スペースなどを廃止して、人々が店舗に入るための列のスペースとする。あるいは、面積の小さな飲食店では今までのように顧客が入れないので、道路上に飲食スペースを設けて、自営業の支援とする。パリだけでなく地方都市も同じ動きだ。これらはまさに、ヨーロッパ中の都市がこの10年間導入してきた、車を中心市街地からできるだけ排除して、「公共交通ネットワークを導入し道路空間の再編成、都市空間を多くの市民と共有する」という街づくりの延長線だ。未曾有のパンデミックで、こんな形で都市空間の新しい共有がさらに加速するとは思わなかった。

カテゴリー

0コメント

コメントを提出

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です